コンドルセのパラドクス

また、ひとり1票制度は投票者の関心の度合いを正しく反映できない。この問題は、すでに18世紀フランスの哲学者ニコラ・ド・コンドルセが指摘していた。それは「コンドルセのパラドクス」と呼ばれる。

たとえば3人(アントワーヌ、ベル、シャルル)がルイ16世の身に起こりうる次の3つの結果に投票するように言われたとする。

A.斬首される  B.王位に復権する  C.民間人として追放される

アントワーヌの選考順位はA.斬首、B.復権、C.追放であり、ベルはB.復権、C.追放、A.斬首であり、シャルルはC.追放、A.斬首、B.復権である。

最初に斬首と復権のふたつで投票してもらうと、2対1で斬首が勝つ。復権と追放で投票してもらうと、2対1で復権が勝つ。斬首と追放だと、2対1で追放が勝つ。斬首が復権に勝ち、復権は追放に勝つが、追放は斬首に勝つのである。これでは誰が勝つべきかまったくわからなくなってしまう。

イメージ/Shutterstock
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問題は、アントワーヌ、ベル、シャルルが、3つの提案に対する関心の強さの度合いにもとづいて投票できないことである。今の投票システムでは「度合い」がきちんと伝わらないのだ。

票が伝達するのは、ある結果を別の結果よりも好んでいるということだけで、その結果をどれくらい好んでいるかはわからない*2

したがって投票は集団の意思の全体的な感覚を表すものではない。結果的に、民主主義は多数派の専制でしかなくなる。