「ホムンクルス柔軟性」
これからのテクノロジーの普及にとって重要なのは、人間の「ホムンクルス柔軟性」という特性である。ホムンクルスとはラテン語で小人を意味する。次ページの図は身体の部位を対応する脳の運動野に投影したもので、頭の中に小人が住んでいるように描かれるためにホムンクルスと呼ばれる。
ホムンクルス柔軟性とは、新しい身体、とくに通常とは異なる動きが可能な追加の四肢を持つ身体に適応できる特性であり、人間はこのホムンクルス柔軟性がきわめて高いと言われる。
自分の脳で簡単に制御できるようにソフトウェアで結べば、現実のどの部分であっても自分の身体だと認識される。たとえば、つま先の動きに連動して雲が動くように設定すると、雲が自分の身体であるかのように感じられる*4。
また最近登場したVRテクノロジーは、人間の物理的な動きを追跡しそれをアバターに表示することができるが、これにより、人間ではない身体を体験することが可能となる。
たとえば人間をロブスターにマッピングすることも可能であり、十分なフィードバックと制御が与えられれば、進化の過程で失った尻尾に対する感覚を取り戻す体験も可能になる*5。
以上のように、本来はごく個人的なものであった深部感覚を共有し拡張するテクノロジーによって、アイデアや感情の直接的かつシームレスな伝達が可能となる。
たとえば、今の自分と同じ年齢だったころの両親の感覚体験に子どもが没入できたらどうだろうか。あるいは敵対するふたつの集団が、相手の家族の苦痛と喪失を体験できたらどうだろうか。それは人類が体験したことのない、親密さの拡張を可能にするだろう。
この新しいパラダイムにおいて、子どもたちは他人の言葉から学んだり行動を観察したりするだけでなく、祖先を含むあらゆる時代の他人の生きた経験や文化に没入することで成長するだろう。
恋人、友人、家族は、お互いの喜び、悲しみ、日常の瞬間を共有でき、物理的な存在を超えた親密さが生まれるだろう。またホムンクルス柔軟性により、コミュニケーションの対象自体が拡張すると、「人間」であることの意味さえ見直されるかもしれない。