「顕著な大雨に関する気象情報」
この検討が行われているさなか、2021年の1月に、筆者は気象庁長官に就任しました。気象庁が抱えている課題はたくさんありましたが、先ほども書いたように、線状降水帯対策は最も重要な課題のひとつです。特に、前年の球磨川を氾濫させた「令和2年7月豪雨」を受け、線状降水帯が発生したときの情報発信は喫緊の課題でした。
では、その情報をどのような形で出すべきなのか?
気象、災害情報、報道、地方自治体、河川、土砂災害などの分野の専門家からは、「重要かつ緊急な情報なので受け手がすぐにそれとわかるような情報にすべきだ」、「危ないのは線状降水帯の雨だけではないので、これだけを特別扱いすべきでない」、「ただでさえ情報の種類が多すぎるのにこれ以上新しい情報を作るべきではない」など、さまざまな意見が出されました。それぞれにごもっともな意見です。
こうした声を踏まえて、情報の形を決めるのは容易なことではありませんでしたが、庁内の担当チームがさまざまな考えを丁寧に聞き取り、最適な形は何か、懸命に考えてくれました。
また、線状降水帯の情報を迅速に発表するため、技術的な準備も進められました。まず、大雨の領域の形や大きさ、雨量などが一定の基準を満たすものを線状降水帯とするという客観的な定義を作りました。
そして、その定義に当てはまる現象を雨のデータから自動的に検出し、情報発表する技術も開発しました。
予報の現場の作業で時間をロスすることなく、迅速に情報発表ができるようにするためです。これには、気象庁以外の研究成果も、ありがたく使わせていただきました。
こうして2021年の6月に始まったのが、線状降水帯が発生したときに発表される「顕著な大雨に関する気象情報」です。この情報の中で、線状降水帯による非常に激しい雨が同じ場所で降り続いていることを伝えることにしたのです。
線状降水帯というキーワードを情報の中で使うことによって、迷っている人、ためらっている人の背中を押すことができるようにしました。
一方で、線状かどうかが問題なのではなく、すでにひどい大雨になっているということを伝えることが大事なので、情報のタイトルは「顕著な大雨に関する気象情報」としたのです。
この情報のタイトルは少し中途半端だと思われるかもしれませんが、実は、将来の防災気象情報全体の見直しを先取りする意図がありました。
大雨などへの警戒が続く中、実際に大変なことが起こったときにそれを伝えて防災行動を後押しするほかの情報、たとえば「記録的短時間大雨情報」などと一緒に整理して、よりわかりやすく伝えるようにしていこうと考えていたのです。今後の防災気象情報の体系の整理の中で、よりよい形に整理されることと思います。