この言葉で命を守れ
気象庁はこのことを防災に活かそうと考えました。いつも災害の後になって、この災害の原因は線状降水帯でした、などと解説するのです。
それならば、前もって、そういう危険な線状降水帯がこれから発生しますよと伝えられれば、多くの命を助けられるのではないかと考えたわけです。
しかし、線状降水帯の予測は容易ではありません。ほんの少しでも可能性があるのなら教えてほしいという声もありましたが、そうすると、梅雨時には毎日のように線状降水帯が発生しそうだということになってしまいます。それでは「オオカミ少年」になってしまって、情報は用をなさなくなります。
その後も線状降水帯による災害は続きます。気象庁は、最重要課題として線状降水帯対策に取り組んでいきました。
発生したら瞬時に伝える
線状降水帯の発生を事前に予測するのが難しい中、気象庁はまず、線状降水帯が発生したときに、瞬時にそのことを伝えることにしました。
予報官たちは、線状降水帯が発生したとわかると、「このあとも大雨が続き、さっき出した『土砂災害警戒情報』の範囲を急速に広げることになるのではないか」「場合によっては特別警報を出すことになるのではないか」などと先を読んで対応していきます。
そして、「あっという間に避難すら危険な状況になるのではないか」「みんな避難してくれているだろうか」と危機感を募らせます。
この危機感を伝えたいのです。「線状降水帯」というキーワードを使うことで危機感を伝え、「避難指示」の発出を迷っている自治体の防災担当者に決断をうながすことができるのではないか、避難をためらっている人たちの背中を押すことができるのではないか。そう考えたのです。
早速、有識者のみなさんからもアドバイスをもらい、情報のあり方について検討を始めました。また、線状降水帯の発生をすばやく検知し、迅速に情報を発表するための技術的な検討も行われました。