有名になった「線状降水帯」

線状降水帯という言葉は、ここ10年くらいで急に使われるようになりました。このため、線状降水帯が最近になって発生するようになったものだと思っている人も多いのではないでしょうか。地球温暖化の影響で発生するようになったと考えている人もいるかもしれません。

実は、線状降水帯は昔からあったのです。筆者が気象庁に入った年、1983年にも山陰地方で集中豪雨があり、大災害になりました。

島根県の浜田市で、1時間の降水量が91ミリという猛烈な雨が降り、1日の降水量が300ミリを超える大雨となったのです。この豪雨も、今から見れば線状降水帯によるものだとされています。

なぜ、最近になるまで線状降水帯という言葉を聞かなかったのかというと、その名前がなかったからです。この名前をつけたのは気象庁の気象研究所で長く集中豪雨などの研究をしていた研究者で、2000年頃のことです。それ以来、研究者の間ではこの言葉が使われていました。

気象庁が記者会見などでこの言葉を使い始めたのは、2014年8月に発生した広島の大雨の頃からです。広島市の住宅地で大規模な土砂災害が発生し、多くの人命が失われました。

写真はイメージです
写真はイメージです

この地域の住宅地の地形とともに、水を含むともろくて崩れやすくなる真砂土とよばれる土が土砂災害の要因として話題になりました。この災害の後、土砂災害をもたらした大雨の原因として、気象庁は線状降水帯という言葉を使いました。

その後も、福岡県朝倉市などで河川の氾濫や土砂災害が相次いだ「平成29年7月九州北部豪雨」、先ほどの球磨川の氾濫が起きた「令和2年7月豪雨」など、毎年のように線状降水帯による犠牲者が出ています。

そのたびに、「線状降水帯」という言葉がマスコミにも取り上げられました。2017年には、流行語大賞に線状降水帯がノミネートされました。

このときは「インスタ映え」、「忖度」などにおされて大賞、ベストテンにはなりませんでしたが、線状降水帯が多くの人が知る言葉になったことは間違いありません。災害をもたらす危険な気象現象だという認識が広まったのです。