「入社して3年は勤めたほうがいい」という神話はすでに崩壊
飯田さんのようなリピーターは年々増えているのだろうか。退職代行サービスのパイオニアとされるEXITの新野俊幸代表に聞いた。
「リピーターの割合は年々増加傾向にあり、とくにリピーター率が高いのは20代から30 代前半。5月末時点で新卒のリピーターも出現しています。この傾向には、退職代行というサービスが世に浸透しはじめ、“気軽に使えるもの”と捉えられ始めているという背景があると考えています。
退職理由については、かつてはメンタルを病んで退職を申告できない利用者が多かったものの、ここ数年で『退職にわざわざ労力を使いたくない』とカジュアルに利用する層が増えてきた。
入社面接で『やる気あります!』と言ったひと月後に辞めるのは誰であっても言いづらいし、引き止められるかも……と想像しただけでめんどくさくなってしまうものですからね。その葛藤を、代行業者で外注して解決したほうが、タイパやコスパがいいと考える人が増えているんです」
EXITが関わったリピーターのなかには、すでに10回以上利用している人もいるという。
「7年前から利用を続け、いま30代になる男性です。建築から飲食まであらゆる業種を試し続けていて、なかには『入社初日ですが空気感に違和感を覚えて……』と依頼してきたときも。さすがにちょっと心配になった時期もありましたが、『ここの職場はヤバい』というセンサーが働いているのはよいことだし、本人は『単にいい職場かどうかを試しているだけ』といった感覚に見えました。ここ1年は依頼してきていないので、おそらくやっと合う職場と巡り合えたんだろうなと思っています」
EXITでも2回目以降の料金を割り引く「リピート割」を設定しているが、ここにはどんな意図があるのか?
「退職代行をリピートすることをまったく否定的に見てないですね。だって、世の中ごまんと会社があるなかで、自分に合う会社や上司と巡り合う確率はとても低い。ほぼ運ゲーじゃないですか。なのに、たまたま受かった会社でパワハラに遭って自分を疲弊させていったり、『自分には能力がないんだ』と思い込んでしまうのは、人生で最大のリスクとも言える。
だったら、自分に合う会社を探し続けたほうがいいし、そのために退職代行を何度使ったっておかしなことはないはず。マッチングアプリで2、30人とたくさんの人と気軽に会うような感覚で会社も選んでいいと考えています」
とはいえ、退職代行を繰り返し使う弊害はないのだろうか。
「もちろん、退職を頻繁に繰り返す行為を職歴に傷がついたと捉える人がいるのも事実。トップ企業への就職を狙う人にはマイナスになるかもしれません。しかし、一般の企業はどこも人手不足ですし、売り手市場なので短期離職によるダメージは10年前と比べてもかなり小さくなっています。
実際、入社して3年は勤めたほうがいい、という神話もすでに崩壊していますよね。弊社で担当した短期退職者も、退職理由と転職の軸を言語化することで、すぐに次が見つかる方が多いです。そういった転職サポートも弊社で行なっています」
最後に「EXITの社員に退職代行を使われたことはありますか?」と少しイジワルな質問も聞いてみた。
「自分の会社で退職代行を使われたことも実はあるんです(笑)、競合他社を使ってやめられました。入社1日目の新卒の子で『テレビ局を蹴ってきた』とやる気満々できたのですが初日に電話がかかってきて……。なんか嬉しかったですね。やっぱり自分が発明したサービスなんで、確かに使われたっていうのが、広まったなって心の底から感じました。自分がいつもやってることを、やられたんでちょっと面白かったですね。
従業員には『本当にいつ辞めてもいいよ』って言ってます。退職代行ってビジネスをやってる以上、うちがブラックになるなんてことは絶対にあってはならないと思ってるんで。もちろん抜けたぶん、リカバリーは大変になるんですけど、それは経営者の責任だなと…」
利用者はまだまだ増えそうだ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班