カフェインは記憶力や運動能力を向上させる
最近、カフェインの効果を確かめるためにミツバチ科のマルハナバチを用いた実験が行われました。なお、マルハナバチは、視力が弱いため、一度遭遇した花の蜜を再び探す場合、その花の匂いを手掛かりにします。
これまでの研究から、マルハナバチは、カフェインを含む蜜をもつ花(カフェイン花)を好み、カフェインを含まない蜜をもつ花(ノンカフェイン花)よりも、より頻繁にカフェイン花を訪れることがわかっています。そこで、ノンカフェイン花にカフェインを添加(カフェイン添加花)すると、マルハナバチはこのカフェイン添加花に訪れるようになることもわかっていました。
しかしながら、これらの研究結果から、マルハナバチがカフェイン自体に惹かれているのか、それともカフェインを摂取したことでカフェイン花の放つ花の匂いに対する記憶力が向上したのかについては、不明でした。
そこで、マルハナバチを三つのグループに分け、カフェインの影響を調べる実験が行われました。第1のグループには、イチゴの香りのするカフェイン入り蜜を与えました。第2のグループには、イチゴの香りだけする蜜を与えました。そして最後の第3グループには、無臭かつカフェインなしの蜜だけを与えました。そして、これらのマルハナバチはこれまでに嗅いだイチゴの花の香りと、一度も嗅いだことのない香りの花が置かれた実験場に放たれました。
もし、マルハナバチがイチゴの花の香りと蜜の関係について記憶していなければ、実験場に置かれた2種類のどちらの花にも寄っていくはずです。実験の結果、第1のグループ、つまりイチゴの香りのするカフェイン入りの蜜を摂取していたマルハナバチの約7割が、イチゴの花を訪れました。
一方、第2のグループは約6割、第3のグループは約4割しかイチゴの花を選びませんでした。これらの結果から、カフェインはマルハナバチの花の香りを記憶する能力を向上させたと考えられます。さらに、第1グループのマルハナバチは、一定時間に訪れる花の回数も増加していました。これらのことから、カフェインの摂取により運動能力も向上していたと考えられます。
それでは、ヒトではどうなのでしょうか? 少し古いデータですが、大学生を対象に行われた実験によると、コーヒー1.5杯(カフェイン約100ミリグラム)を摂取した後、1500メートルを走ると、通常よりもタイムが約2秒短縮したと報告されています。
なお、オーストラリア国立スポーツ研究所が公表しているサプリメントデータベースにおいて、カフェインは、スポーツパフォーマンスを向上させる効果があると認められています。また、国際スポーツ栄養学会は、体重1キログラムあたり3─6ミリグラムの摂取でアスリートのスポーツパフォーマンスを高める効果がある一方で、それ以上の用量を摂取してもパフォーマンスのさらなる向上は認められないと発表しています。
別の大学生を対象にした研究では、カフェイン200ミリグラム(コーヒー2、3杯に相当)またはカフェインの偽薬としてラクトース250ミリグラム(プラセボ群)を摂取してから30分後に、リストに記載されていた単語を素早く思い出すという課題を行いました。その単語リストとは、15単語からなるもので、特定の単語(たとえば、眠る)から連想する単語(たとえば、ベッド、休息、起きる、疲れる、などの単語が合計で15個記載されている。以下、リスト語)が記載されています。
カフェインを摂取した学生では、プラセボ群と比較して有意に特定の単語だけでなく、リスト語も数多く思い出すことができました。このことから、カフェインは、単なる単語の記憶(単純記憶)だけでなく、特定の単語から別の単語を推定して、その推定した単語がリスト語と一致するかどうかを判定する記憶(誘発記憶)の両方を促進したのです。