薬も過ぎれば毒となる
コーヒーやお茶などカフェインを含む飲み物を摂取すれば認知症の予防にも役に立つといった研究成果も報告されています。一方で、イギリスの37歳から73歳までの1万7702人を対象に行った疫学調査では、コーヒーを1日6杯以上飲む人は、認知症や脳血管疾患のリスクが約53パーセントも高まると報告しました。国内では、エナジードリンクを日常的に大量摂取していた男性が亡くなるという痛ましい事故も起こりました。
カフェインの過剰摂取は、中枢神経系の刺激によるめまいや不安、興奮、震えや不眠、さらには心拍数の増加、下痢や吐き気、嘔吐などの消化器症状といった健康被害を引き起こすことがあります。そして、場合によっては前述のように死に至ることもあります。
これまで述べてきたように、「カフェインには、覚醒効果、記憶増強、運動パフォーマンスを高めるといった作用がある。だからカフェインを摂れば摂るほど、これらの有益な作用が高まる」という考えをもつ人が多いのかもしれません。しかし、実際にはそのようなことはなく、カフェインを適量を超えて摂取したとしても、有益な作用をさらにもたらしてくれるわけではありません。
それよりも、一度に大量に摂取すると体に悪影響を与えてしまいます。また個々人によってカフェインに対する代謝の速度も異なるため、その効果にも大きな違いがあります。いずれにしても、薬も過ぎれば毒となるのです。
カフェインを一生涯摂取し続けたとしても、健康に悪影響が生じないと推定される1日あたりの摂取許容量については、個人差が大きいことなどから、日本においても、国際的にも設定されていません。
ただ、世界保健機関(WHO)や英国食品基準庁(Food Standards Agency, FSA)、カナダ保健省(Health Canada, HC)において、1日あたりのカフェインの摂取量の目安が提案されています。
たとえばHCでは、健康な成人の場合、1日にカフェイン400ミリグラム(コーヒーをマグカップ〈237ミリリットル換算〉で約3杯)までとし、カフェインの影響がより大きいと考えられる妊婦や授乳中、あるいは妊娠を予定している女性の場合は、1日最大300ミリグラムまで(マグカップで約2杯)。子どもの場合はさらにカフェインに対して感受性が高いと考えられるため、4─6歳の子どもは1日に最大45ミリグラム、7─9歳の子どもは1日に最大62・5ミリグラム、10─12歳の子どもは1日に最大85ミリグラムまでとするとされています。
なお13歳以上については、データが不十分ではありますが、1日あたり体重1キログラムあたり2.5ミリグラム以上のカフェインを摂取しないことが望ましいとされています。
学期末試験や受験のシーズンは、眠気覚ましや風邪をひいたなどといって、コーヒーやエナジードリンク、さらには総合感冒薬を摂取する機会が多い時期です。私たちの生活の中で、これらの飲み物や薬に触れる機会が多くなりますので、今一度確認のうえ、うまくつきあっていただければと思います。
文/坪井貴司