仕事をあきらめたくないという気持ちも…
いっぽう、出生率アップに成功した国がある。
ハンガリーでは、2015年から新婚カップルへの税額控除を導入したのに加え、妻が妊娠すると妊娠91日目から給付金が出る。
さらに、4人出産した女性は所得税が生涯ゼロになるほか、30歳未満の子持ち既婚者の学費は無償、住宅助成金も潤沢だ。これにより、2010年から約10年で婚姻数は2倍近くに、1.25だった出生率は1.59ポイントまで改善した。
「日本では出産に適した年齢とされる20〜30代の女性が減ってきているので、せめて出生率を上げるしかない。そのために、日本が取り組むべき点として、まずは、男性が家事・育児に積極的に参加することがあげられます。
ある国際データで、男性が家事・育児に参加する国ほど、出生率が高いことがわかっています。国内でも、父親が家事・育児に積極的な家庭ほど2人目が生まれやすい」(前出・山口氏)
いくら可愛い子どもでも、「ワンオペだからこれ以上は無理……」という母親は多いという。また、夫の会社に育休制度はあっても“取りづらい”人もいる。
「日本はほかの先進国と比較しても、育児休暇の制度自体は整ってきています。しかし、『実際には取りづらい』というのが最大の障壁だと思います。
そこで、企業のトップ、部下を持つ上層部には育休取得を奨励してほしい。育休を取りやすい雰囲気をつくることは、優秀な人材を惹きつける(企業の)魅力にもなる。幹部が意識的に育休を勧める企業が、もっと増えてほしい」(前出・山口氏)
現代の女性は働き方にも、苦慮している人もいる。3歳と5歳の子どもを育てながらIT関連企業に勤めるKさん(30代)はいう。
「子どもとの時間を大切にしたい一方で、仕事をあきらめたくないという気持ちがあります。今は、会社の理解があり、在宅勤務をメインでなんとか両立をしています」
女性にとって、出産をすることはキャリアをあきらめることにつながることもある。出産とキャリアを天秤にかけ、出産自体をあきらめた人や「あと一人ほしい」を踏みとどまった女性もいる。
前出の山口氏はいう。
「キャリアを積む上で大事な年齢と、子どもを産み育てるのに適した年齢が重なっている。今後、『キャリアを積んでから子どもをもうける』という認識を改める必要があるのでは。
男性ですが、大学院に通いながら同年代の女性と結婚し、20代半ばで第一子をもうけた教え子がいます。子どもを持ち、育てながらキャリアの重要な時期を迎えていく。こういう新たなロールモデルを社会のなかで増やしていかねばなりません。
こうした生き方の広がりに、従来の企業の仕組みや社会制度が対応しきれていないのが現状です。ここから手探りで検証しながら、多様なライフコースを支える仕組みを社会全体に根付かせていくこと。それが、子どもを持ちたいと願う人が希望するタイミングで安心して家庭を築く環境づくりにつながり、結果として少子化対策に寄与するのだと思います」
日本は、女性が産み育てやすい社会をつくっていけるのだろうか。
取材・文/山田千穂 集英社オンライン編集部ニュース班