転機は天心との一戦での「敗戦」

考え方が変わった大きなきっかけは世紀の一戦での「敗戦」だった。2022年6月19日、東京ドームで那須川と対戦。結果は3ラウンド判定で敗れた。それまで10年間負けなかった武尊は「負けたらすべて失う」と思いこんでいたが、敗北の花道で大勢のファンが押しよせ「ありがとう!」と拍手を送られた。

「それまでの僕は、格闘技の試合はみんな勝者だけを見て、敗者は誰にも見られずに帰っていくものだと思っていました。(K-1デビュー前に負けた)10年前がそうだったんです。だけど、あの(天心に負けた)時は花道に観客の方々が集まってきてくれて、考え方が変わりました。

弱いところを見せることで伝えられることがあると教えられました。負けても離れない人たちもいると思ったんです」

「強さ」だけを追求してきた武尊に訪れた転機
「強さ」だけを追求してきた武尊に訪れた転機

それは武尊が誠実に格闘技に向き合い、K-1のために真摯に闘ってきたからこその敗北への賞賛だった。那須川との対戦が叶わず、ネットで誹謗中傷する層は現実にいた。しかし、大多数のファンは武尊の「真実」をわかっていたのだ。

そして武尊は決断をする。10代から家族以外には明かしていなかった精神疾患を公表したのだ。それは那須川戦から8日後に開いた記者会見だった。

「那須川選手に負けて引退しようかなと思ったこともありました。だけど、辞めるのではなく『ありがとう』と言ってくれたファンの方に今度は、体も心もちゃんと回復させて復活したいと思いました。

見ている人に本当の意味で勇気、パワー与えるためにも病気を克服して体も治して復活して闘う姿を見せることが格闘家としてやるべきことだと思った。同じ病気の人にも勇気を与えられると思ったので、精神疾患も公表しました」

結果的に、負けたことで自分の弱さだと思っていた病気を公表することにつながった。

「那須川選手に勝っていたらそれは言えなかったと思います。負けたらファンが離れる、一回でも負けたら僕の価値がなくなると思ってすごい怖くて、負けたらすべて終わりだなと思っていた時に離れないファンの方たちがいた。それを見た時に自分の中で弱いところ見せてもいいんだと思ったんです」