憧れのタワマンに住み始めたけれど…インフラの不備、大規模修繕費用の落とし穴に「こんなはずじゃなかった」過去には一戸あたり250万円の費用負担の事例も
都市臨海部に林立するタワーマンション。華やかに見えるその空間だが、実は完成されすぎて余白がなく、リスクが潜んでいると建築エコノミスト森山高至氏は指摘する。さらには問題を先送りにしてしまったツケで払わされる喫緊の課題が目前に迫っているというが、それはいったい何なのか。
『ファスト化する日本建築』(扶桑社新書)より、一部を抜粋・再構成してお届けする。
『ファスト化する日本建築』#3
タワマンの大規模修繕費用は低層マンションの約2倍
この大規模修繕はまず建物周囲を足場で覆い、長いときには1年以上もかけて外装の補修をおこなう。
ほとんどのマンションで修繕積立金を納めているのはそのためである。おおよその目安として、1住戸あたり120万円くらいの費用がかかるといわれており、15年ごとであれば、1年で10万円程度の積み立てが必要となるから、修繕積立金も1ヶ月あたり1万円以上というのが一般的である。
写真はイメージです(PhotoACより)
しかし、それは15階建てくらいまでのマンションの話であって、30階、50階といった超高層マンション、タワマンではそうもいかない。
通常の足場で対応できる高さではないからだ。
現在のところ超高層のマンション大規模修繕を請け負うことのできる工事会社は限られており、その費用も未知数なのである。
2000年以前に建築したタワマンで2015年頃におこなわれた大規模修繕には約15億円ほどかかっている。約600戸なので一戸あたり250万円と、低層マンションの約2倍である。それでも、タワマンの大規模修繕をやれる業者を見つけるのに2年以上を費やし、実際の作業にも2年かかったという。
臨海部のタワマンの建設は2010年前後が多く、それらは皆、これから大規模修繕の時期を続々と迎えることになる。
建設時に比較して建設工事費も建材も高騰し、そもそも建設業者事体が減少している中、果たして当初の予定どおり大規模修繕がおこなわれるのか、修繕積立金で間に合うのか、決して楽観視することはできないだろう。
写真はイメージです(PhotoACより)
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それだけでなく、投資のために購入し不在所有者も多いといわれるこうした臨海部のタワマンで、大規模修繕費用が想定以上に増額した場合に、理事会での承認が採決され得るのかどうか、という問題も残している。
そういった意味でも、タワーマンションを一建物とだけ見るのではなく、多くの人が暮らすコミュニティとして、持続的な都市生活の基盤としての位置付けと法整備が必要となるはずだ。
それを放置して、新築時にのみ様々な制限を掛けてはいるが、許認可後の運営や、数十年後の姿にまで言及しない行政も、分譲したら終わりのデベロッパー、建設会社も建築家も、都市計画的な対応を怠っているという現状は、完全に都市のファスト化をさらに助長しているということに他ならないであろう。
文/森山高至 サムネイル/Shutterstock
『ファスト化する日本建築』 (扶桑社新書)
森山 高至 (著)
2025/4/24
1,155 円(税込)
304ページ
ISBN: 978-4594100063
早い工法、安い建材、簡単な計画──
最近の建物、 なにかがおかしい!?
・「木」を貼りたがる公共施設
・写真映えを優先する建築デザイン
・迫るタワマンの「大規模修繕」問題
・理念のない大阪・関西万博 ……etc.
建築エコノミストが現代日本の建築業界を蝕む「腐敗」を斬る!
いま、日本の建築業界の根底が揺らいでいます。
たとえば、有名建築家によって設計された施設が、オープン時には華々しい見た目から話題になったものの、本来なら何十年ともつはずなのに、数年で朽ちてしまい、何億円と補修費用がかかる……というニュースが世間を騒がせています。
また、住宅や商業施設では、石や無垢材といった自然木材を目にする機会は減り、化粧板や合成素材といった「フェイク建材」が巷に溢れ、本物の素材を扱える職人は姿を消しつつあります。
どうしてこのようなことが起こっているのでしょうか。
バブル崩壊以降、社会に余裕がなくなり、建設においても「早い・安い・簡単」、つまり「ファスト」を追い求めた結果、ますます建築業界も疲弊し、社会に悪循環をもたらしている……と説くのは、建築エコノミストの森山高至氏です。そんな建物の「ファスト化」は、わたしたちにもたらすのでしょうか。
そこで本書では、建築文化の成立を歴史から読み解き、ひるがえっていまの建築業界に山積する問題とその原因はなにかを、「住宅」「公共施設」といった身近なところから、オリンピックや大阪・関西万博のような「国家」レベルの大規模なものまで、さまざまなテーマから徹底的に解説します。