1億1800万円で解体された廃墟マンション
2020年1月、日本の住宅史に残るであろう大きな出来事が起きた。国内で初めて行政代執行によるマンションの解体が行われたのだ。
対象となったのは滋賀県野洲市の「美和コーポB棟」。1972年に建てられた鉄骨3階建て・全9戸の小ぶりな建物は解体の10年ほど前から無人になっていた。誰もいなくなったマンションは劣化が進む。2012年には上階の廊下の手すりが外れてぶらさがり、階段も崩落して見るからに危険な状態になる。
野洲市は区分所有者に改善指導書を送付したり、連絡がついた数名と協議を行ったりと対応を試みるが事態は改善しない。2018年6月には大阪府北部地震の影響で県道に面した外壁がすべて崩れ落ち、室内に捨て置かれた家具や家財があらわになった。
同年8月、市が行った調査で、むき出しになった鉄骨の吹き付け材から基準値をはるかに上回るアスベストが検出される。市がすぐさま自主解体を求める所有者説明会を開催すると9人中7人が集まった。その場では全員の賛同が得られたが、マンションの所有権を定める区分所有法では解体や建て替えには所有者数の5分の4の賛成が必要とされており、欠席者は「反対」に数えられる。結果、解体の決議には至らなかった。
市はその後、空き家対策特措法に基づき特定空き家に指定。行政代執行による解体に踏み切った。かかった費用は1億1800万円に上る。各所有者に納付命令書を送付しているが欠席者2名のうち1名は長らく所在不明になっており、全額回収のめどは立っていない。現在も7900万円が未回収のままだ(2021年10月時点)。