クロマツ 僕の場合は漫画なので、もうすべて作り物ですけどね(笑)。フィクションと言えば聞こえはいいですけど、出鱈目なところも多分にありますし。
早見 でもきっと、野球の現場にいる人が『ドラフトキング』を読んでも、「こんなことあり得ない」とは思わないですよ。ちゃんとリアリティが担保されているように見えます。
クロマツ そう言っていただけるとホッとしますけど、漫画として楽しんでもらうには、リアルにあまりとらわれすぎないようにしなければ、とも思っています。
早見 リアリティよりも、面白く読めることのほうが重要ということですね。ちなみに、主人公のスカウトマン、郷原眼力(ごうはらオーラ)の元ネタになっているモデルはいるんですか?
クロマツ いえ、本物のスカウトの方には何度も話を聞いていますが、特定の人はいないです。ただ、これだけ選手がいると、実在の誰かのケースと期せずして被かぶってしまうことがあって、僕のほうがびっくりすることはありますね。
早見 そういうことってありますよね。僕も『ザ・ロイヤルファミリー』(新潮文庫)という作品で、とくにモデルなど想定せずに主人公格の馬主を書いたのですが、何人もの方に「これってあの人でしょ」と言われました。みなさんに申し訳なく思ったことがあります。
鈴木 でもそれは、やはりリアリティがあればこそでしょう。僕はノンフィクションの人間なので、モデルがいないのにそれだけのリアリティを表現できることが信じられないですよ。
クロマツ 逆にモデルを設定すると、それに頼り過ぎてしまうことがありますからね。だから僕は普段、「こういうスカウトや選手がいたら面白いなあ」というイメージを大切にしています。
早見 モデルを設定したところで、ノンフィクションには太刀打ちできないですしね。だから想像力で戦うしかないわけですが、そうかといって読んでいてちゃんちゃらおかしいものを書いてしまうのも怖い。そうならないように、取材だけはサボらずにちゃんとやらなければといつも思っています。
鈴木 取材で集めた要素の集合体として作品がある、という考え方ですか。
早見 そうですね。ただ、もちろんメモも取るし録音もするんですけど、それよりも自分の胸に残っていたものこそが、読者にとって面白い部分だろうと思っています。数ヵ月後に振り返ってみて、その取材の中で自分が最も面白いと感じた部分がいつもベースになっている気がします。
鈴木 興味深いですね。そうしたらリアリティが残った、と。
早見 残るというより、リアリティが“宿る”という感じかもしれませんね。