「やなせたかしを描くことは、戦争を描くこと」
――史実では、やなせ夫妻は戦後の高知新聞で出会いますが、2人を幼馴染の設定にしたのは何か理由があるのでしょうか。
やなせさんに子ども時代のことを聞いたことがあるのですが、「気が弱くて、男の子っぽい遊びはしてなくて、いつも女の子と遊んでいた」とおっしゃっていたのが、強烈に私の中に残っていたんです。
やなせさん自身、早くに父親を亡くし、複雑な生い立ちなので、幼少期はとても寂しかったんじゃないかと思うのです。二人を幼馴染の設定にしたのは、やなせさんの傍には、元気で明るい女の子がいてくれたらいいな、という私の願望も入っています。
――嵩とのぶが幼馴染から恋愛関係に発展していく様子を描くうえで、心がけたことはありますか。
2人の間では、きっとこういう会話がされていたんじゃないかなと創造を膨らませて書いていたら、自然と恋に落ちました。そこは自信があります(笑)。本来、ラブストーリーを書くのは大好きなので、久々に大恋愛物を書きました。見どころです。
――アンパンマン誕生の背景にもなった第二次世界大戦のシーンはどのように描くのか。そこに込めた想いをお聞かせください。
今年は戦後80年でもあり、やなせさんの人生を描くことは、戦争を描くことでもあります。やなせさん自身、激しい戦闘に巻き込まれたわけではありませんが、それでも生前「戦争は大っ嫌いだ」と言い続けた方でした。
そして飢えることがいかに辛いことかをいろんな作品で残しています。だから、アンパンマンを生むきっかけとなった戦争のシーンはしっかり描く予定です。
――第一週が「人間なんてさみしいね」、第二週が「フシアワセさん今日は」と、従来の朝ドラらしからぬサブタイトルでしたが、どういう意図があったのでしょうか。
何も失わない人生ってないですよね。のぶも嵩もお父さんを早くに亡くし、いろんな別れを経験しています。何度も大切なものを失い、深い悲しみを乗り越えてきたからアンパンマンが生まれたんです。
やなせさんはすごく明るくて冗談が好きな方でした。そして、人生は辛いことがあるから、楽しい物語や音楽が必要だということを誰よりも感じていた方だと、私は思います。
深い悲しみを味わわなければ、喜びも幸せも分からない。それがやなせさんの作風であり、人生だと思うのです。その精神を大切に今後も書いています。
――最後に物語全体の見どころを教えてください。
“正義は逆転する”という重いテーマでもありますが、青春や恋愛などいろんな要素が入っています。つらい出来事も多いので、どうやって楽しく、面白く届けられるかと思って書いています。
物語が進むにつれ、どんどん史実に忠実になっていくので、アンパンマンがどのように生まれたのか、そこも楽しんでほしいですね。多くの人にやなせさんの精神そのものを知ってもらいたいと願っています。
取材・文/木下未希