夫婦が出会った高知新聞社

――朝ドラ『あんぱん』の執筆に際し、どのような方々に取材されたんですか。

発表前だったので身分を隠した状態で、やなせさんと暢さんが出会った高知新聞に取材に行きました。やなせさんが育った高知の街を歩いたり、やなせさんの秘書を長年務められた越尾正子さんにも徹底的に話を聞きました。

自宅兼アトリエやスタジオにも伺ったんですが、「私、ここに手紙を送っていたんだ」と不思議な気持ちになりました。子どもの頃、やなせさんの影響で詩を書き、そこから今の脚本家という仕事に繋がったという意味では、私を作ってくださった人だと改めて感じました。

――2人の出会いの場である高知新聞はどういう場所として描いていきたいですか。

『あんぱん』では幼馴染の設定にしましたが、本来2人が出会うのは高知新聞。そこからは、かなり史実に忠実に描いています。実は2人が高知新聞にいた時期はとても短く、暢さんに関しては1年もいませんでした。

でも、戦後2人が高知新聞で出会うということにとても意味があると思っています。2人が編集に携わった雑誌「月刊高知」など貴重な資料をお借りして読み込み、大切に書きました。

――主人公ののぶのモデル・暢さんは生前の資料があまり残っていませんが、どのように描いていますか。

青春期は想像を膨らませるしかありませんでした。私の知る限り、当時の真面目で純粋、かつ教育を受けた女の子は、ほぼみんな軍国少女になっていきました。このドラマは、戦後正義が逆転するなかで、“逆転しない正義”に行き着く夫婦の物語なので、特にのぶは思いっきり逆転すると思います。

暢さんが高知新聞時代に書かれた編集後記を読むと、人柄を感じることができました。イメージを膨らませながら、やなせさんの秘書だった越尾さんから聞いた素敵なエピソードもたっぷり使っています。

「はちきん」と呼ばれた朝田のぶを演じる今田美桜
「はちきん」と呼ばれた朝田のぶを演じる今田美桜