1分の遅刻で100万円の罰金も

2013年、埼玉県内のある公立中の同窓会が開かれた。

30代半ばになったかつての学友が昔話に花を咲かせ、近況を報告しあう。男性はひとりの同級生とあいさつを交わした。特別仲がよかったわけではない。中学だけでなく高校、大学も一緒だったが、同じクラスだったのは中1の1年間だけ。大学もキャンパスは別で、顔を合わせるのは17年ぶりだった。

この日を境にふたりは時折食事に行くなど付き合いを深めていく。「仕事を手伝ってほしい」。あるとき、同級生が持ちかけてきた。男性は当時、経営していた理容室を廃業したばかり。誘いに応じ、17年から同級生が仲間と設立した測量会社で測量部長を務めることになった。上司にあたる統括部長だった同級生は3年後、社長に就任。ふたりの間に明確な上下関係が生まれていった。

計画通りに業務が終わらなければ声を荒らげて叱責。仕事の進捗を30分おきにLINE(ライン)で報告させられた。「俺がきょうなんて言ったか覚えてるよな」「覚えております。申し訳ございませんでした」。ラインに残るやりとりはおよそ旧友同士とは思えない。「ぶっ飛ばすぞ」「バカなの」。そんな罵倒も送り付けられていた。

原告と被告の関係性(『まさか私がクビですか?』より)
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19年ごろからミスをするたびに「罰金」と称して金銭を要求されるように。訴状によれば最初は1回1万円だったが、1分の遅刻で100万円を取られたこともあった。「机きたない」など、男性のメモには取るに足らない理由も記されている。男性側の訴えでは、徴収された総額は21年までに計2724万円。いよいよ払えなくなると同級生は男性のクレジットカードを使って私物を購入した。

異常な環境だった――。男性がそう述懐する職場を脱することができたのは21年5月のこと。罰金などの支払いで預金が底を突き、母親に借金を申し入れたところ「なぜそんなにお金が必要なのか」と聞かれた。事情を打ち明け、会社を退職。支払わされた金額相当の損害賠償などを求め、同級生と会社を訴えた。