『ダウンタウンDX』は“タレント仕事”
ところがゴールデンタイムのMCに抜てきされた『ダウンタウンDX』は、そうはいかなかった。今思い返すと、『ダウンタウンDX』はダウンタウンが初めて「外を向くきっかけ」になった番組だ。
実際に松本は自著『「松本」の「遺書」』(1997年/朝日新聞出版社)で、
「お笑いタレントとしてまっとうな仕事は『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』と『ごっつええ感じ』だけやから、その二本だけやっていたらいいやけど、そうもいかへんからねえ」
と綴っている。
つまり『ダウンタウンDX』は、自分たちの“お笑い”とは別軸の“タレント仕事”であるということなのだ。そんな同番組の初期のコンセプトは、現在のスタイルとは異なり、大物ゲストを呼んでじっくり話を訊くものだった。
第1回はなんと俳優の菅原文太。今でこそどんなゲストが相手でも物怖じせずに進行できるダウンタウンだが、当時はそれができなかった。トークはたどたどしく、そのぎこちなさが見ている側の緊張感を高めた。浜田、松本の喉の渇きや唾を飲み込む音が視聴者にまで伝わってきそうだった。
筆者が印象に残っているのは、ボクサーの辰吉丈一郎の出演回。世界王者陥落や返り咲き、網膜剥離による引退危機、薬師寺保栄との死闘での敗北などにより、辰吉には常に進退の話題がついてまわった。
そんな渦中の辰吉を『ダウンタウンDX』はゲストに迎えた。浜田はそこで辰吉に「もしボクシングを辞めたらどうするのか」としつこく尋ねた。だが、「ボクシングを辞める」という概念がそもそもなく、実際に54歳になった現在でも現役を続けている辰吉とは話が噛み合うはずもなかった。質問を受けた辰吉が「それは失礼やで」と苦言を呈するほどだった。
今の浜田であれば、たとえば2022年7月26日放送『ごぶごぶ』(MBS)で那須川天心との世紀の一戦に敗れて傷心の武尊に対し「なんかあったん?」とうそぶきながら、ゲストの現状や考えをうまく引き出すことができたはず。
しかし当時のダウンタウンは明らかにトーク番組を進めるための、スキル、経験が不足しているように見えた。しかもその生々しいまでのぎこちなさが、ほとんど編集されることなく放送されていた。