「すみません」を「ありがとう」に換えると、失敗が怖くなくなる
とはいえ、謙虚な姿勢を美しいこととして育てられてきた日本人には、とっさの「ありがとう」は勇気がいるはず。でも、職場のマナーにしてあげれば、言えるのではないだろうか。私自身は、「すみません」と立ちすくむ部下には、「ありがとう」にしてね、と声をかける。これ、職場のキャンペーンにしてもよいのでは?
急ぎの案件や、顧客を巻き込むようなトラブルで「すみません」を言わざるを得ない場面を除いて、上司のミスの指摘には「ありがとう」と言おう。プライベートなことで席を立つときも、「ありがとう」で立とう、と。
「すみません」を「ありがとう」に換えると、情けない気持ちにならないので、上司のダメ出しが傷つかなくなる。結果、失敗にタフになれる。意欲が萎えないので、作業効率も上がる。いいことずくめでしょ?
「すみません」を「ありがとう」に換えると、世間が優しくなる――これは、何も職場に限らない。幼少期からそんなシーンを目撃していると、自然にできるようになるので、子育て中の方には、ぜひ、子どもたちの前で“「すみません」ではなく「ありがとう」”を実践してあげてほしい。
見知らぬ人に注意されたときでも、相手に実害がなければ、「ありがとうございます」で返せばいい。
発熱した幼子を連れて、薬局で調剤待ちをしているとき。子どもがだるがって抱きついてきたので、抱き上げて背中を撫でてやったら、離れたところに座っていた年配の婦人が「土足のまま!」と吐き捨てるように言ったとしたら(ちなみにこれは私の友人に起こった実話)、多くのお母さんは「すみません」と謝ると思う。けど、悲しい気持ちにならない? 母親失格な気がして情けなくて。
こういうときは、半ば笑顔で「ありがとうございます」と言いながら、手のひらかハンカチで靴裏をカバーすればいい。「気づいてくださって(粗相を未然に防いでくださって)、ありがとうございます」の意だが、「ありがとうございます」だけで通じる。
そうすれば、互いの意識の中で、「靴のまま椅子に上がらせる、ダメな母親」から「いつもはちゃんとしてるけど、今はいっぱいいっぱいでできなかった、大変なのに頑張ってるお母さん」に昇格する。まぁ、もちろん、相手のお高いお召し物に靴が当たったことを指摘されたら、「すみません」と謝るしかないけどね。
とっさの「ありがとう」、最初は勇気がいるけど、子どものためだと思って、勇気を出してください。
文/黒川伊保子 サムネイル写真/PhotoAC