サハラ砂漠旅行でもトレーニング
もうひとつ、長く続けるコツは“オンオフ”をつくらないことです。
――トップ選手でもコンテストのない12月から4月くらいまでのオフシーズンは好きなものを食べるようですね。
私がポージング指導をしている生徒の中にも、シーズン最後の大会が終わった瞬間にトレーニングがおざなりになる子もいます(笑)。
それはそれで悪いことじゃないけど、私はオンオフ関係なくトレーニング内容やライフスタイルがずっと一緒ですね。毎日、家とジム、自分で経営しているスタジオへ行く生活で行動範囲が狭くてそれ以外のことはあまりしない。
オフで気が緩むとまた苦しいシーズンに入るときに気が重いじゃないですか。だからオフをつくらないのが長く続けられている秘訣かもしれません。
――あまりレジャーもやらない?
オンシーズンはすべて我慢です。毎年、年始に夫と行く旅行でもトレーニングのことは忘れられません。以前行ったモロッコ旅行のホテル選びもジムのマシンの充実度で決めました。サハラ砂漠はテント泊だったのでさすがに諦めましたけど、砂漠でランジウォークして鍛えてました(笑)。
夫はトレーニングにまったく興味がないんですけどね!
――旦那さんも大変(笑)。オンとオフで体重の違いは?
オフシーズンは57.5キロ、オンシーズン50.5キロくらいです。
食事量を落として減量すると筋肉量も落ちてしまうので、食べる量は変えずに、例えば白米などの炭水化物をサツマイモやカボチャ、オートミールといった低GI値のものに変えて、お肉も低脂質のものを選びます。大好きなワインもシーズンに入ったら一滴も飲みません。
――そんな生活を10年間……。
たまに、いろいろ我慢してコンテストに勝つ競技人生と、いつでも好きなものを食べられる生活、どちらが幸せなんだろう……と考えるときはありますね(笑)。
――そのなかで一番うれしかった瞬間はありますか?
「アーノルド」(IFBBアーノルドクラシックヨーロッパ)で勝ったのはうれしかったですが、それもあくまで通過点。
というのも私よりもはるかに長い、30年というキャリアを持つトップボディビルダーの佐藤茂男さんから「フィットネス競技は短距離走じゃなくて、ゴールを自分で決められるマラソンだ」と言われたんです。
どんな紆余曲折があろうと、ゴール前のちょっとした出来事ということですよね。だから引退試合が一番うれしいと思えるように頑張りたい。そして、そんな競技人生を若い子たちに見せられたらと思います。
後編ではその紆余曲折、自身を襲った子宮頸がんについて長瀬さんが語る。
取材・文/武松佑季
撮影/下城英悟