3,4歳から始めるのがよい

体力、体型が同じであったら、基本的な運動センスが豊富な人のほうが伸びてくると、私は思っている。そのために子どものうちに、身体を使ったいろいろな遊びをやらせてほしい。

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遊び程度でよく、本格的にやらなくていい。感覚を覚えるための練習と考えてほしい。

またこれらの感覚づくりは、トレーニングではないので疲労感を伴わない。むしろ遊び感覚で行なうほうがよいと思われる。

感覚づくりは、専門種目を始める前に行なうことが望ましい。となると3、4歳くらいから始め、中学校に入学するまで、10年間の長きにわたり行なうことになる。

どうして私がその年代にこだわるかというと、私自身、子どものころにそのような感覚が備わっていなかったからである。

ハンマー投げの選手となってから、大きなスランプに遭遇したのもそのためであろう。もちろん、ハンマー投げという競技が、技術の難しい種目であったことも事実である。

私は大きなスランプに遭遇したときも、ハンマー投げの技術の研究と実践を繰り返すことで、乗り越えてきた。その経験により、私は「ハンマーを遠くに飛ばす感覚」を獲得したのである。そしてその豊富な感覚が、息子や娘、多くの学生選手の指導に役立った。

さらに、専門以外の知識も必要だと思う。専門家は自分の専門だけ知っていればいいわけではなくて、世の中のいろいろなことを知る中で応用が利いてくる。

私も物理学という学問は専門外であるが、自分のやってきた投擲を見直すときに、物理の本を読んでマクロたる法則を見つけることができた。

現在も私はハンマー投げの指導をしているが、教えることの難しさは感じている。それは、選手に「ハンマーを遠くに飛ばすための感覚」が備わっていないことにある。

そのため、感覚養成のドリルを考案して行なわせるが、それでもできないことが多い。そこでさらに、新たなドリルを考える。しかしそれもうまくいく確率は低い。選手たちにもそれぞれ個性があるため、問題点もそれぞれ異なる。

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野性のスポーツ哲学 「ネアンデルタール人」はこう考える
室伏重信
野性のスポーツ哲学 「ネアンデルタール人」はこう考える
2025年3月17日発売
1,045円(税込)
新書判/208ページ
ISBN: 978-4-08-721356-0

「アスリートから芸術家まで。今、困難を乗り越えて、何かを獲得しようとしている人々にとって示唆に富む本」室伏広治氏

◆内容◆
陸上競技ハンマー投げ選手としてアジア競技大会5連覇を達成し、「アジアの鉄人」と呼ばれた著者。競技者としてだけではなく、長男でアテネ五輪金メダリストの室伏広治をはじめ多くのアスリートを指導してきた。
著者は世界の強豪に比べれば決して恵まれた体格ではなかったと言うが、太い骨格に大きな手を備えた自身の肉体の特徴に「ネアンデルタール人」の面影を感じていたという。
そんな「ネアンデルタール人」の末裔(まつえい)として、今も指導する選手を通じ、会心の一投を追究する男が明かす競技人生とスポーツ哲学。
自他の才能を引き出す、究極のコーチングとは? 室伏広治との特別対談も収録。

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