空にはかなわない
大屋根リングは、突然思いついたわけではないという。藤本は、さまざまな考えをめぐらせていた。
入場ゲートから流れてきた人が会場を回る導線はどう考えれば良いだろうか。来場者がまっすぐ進むと一部に集中しすぎるので、丸く回るのがスムーズだろう。夏の暑さを考えると、屋根は必要だ。屋根に上れるようにして、屋外劇場みたいに使えないか……。
2020年夏に夢洲へ行ったのが一つのきっかけとなり、丸い大屋根リングをつくる方向で考えが落ち着いたという。
「天気がよくて、雲が美しかった。めちゃめちゃきれいな空を見た時に、『建築はこの空にはかなわないな』と思った。それならば、(下から見上げることで)空を切り取れるようなリングをつくり、たくさんの国の人たちみんなで空を見上げるストーリーがいいなと」なぜ、大屋根リングを木造にしたのか。
藤本によると、欧州や米国など世界的に木造の大規模建築が注目されているという。
「リングを世界にアナウンスするなら、木造以外はないと思った。樹齢30年ぐらいまでの木は多くの二酸化炭素を吸い、それ以上に年をとると、あまり吸わなくなる。樹齢30年ぐらいで切って、また植林するサイクルができれば、二酸化炭素も吸ってくれるし、建材も半ば自然に供給される」
「(木は)『未来の建材』とも言われるが、日本ではそんな肌感覚はないだろう。1000年以上の木造の伝統がある日本で、大規模な木造建築が普及しないのはもったいなさすぎると思っていたところ、万博の話があった」
ただ当初は、大屋根リングのような大規模の木造建築を日本でつくれるかは見通せなかったという。木材を加工して、大屋根リングに使う大きさの集成材をつくれる工場が多くないためだ。
コストの問題もあるので、鉄骨で同じ規模の大屋根リングをつくった場合の値段を積算してもらった。それを超えない値段で、木造でつくれるなら、木造にしようという方針を万博協会と話し合って決めたという。