過激なコンセプト

「これって誰が喜ぶの?」

「発想がハコモノ的だ。(高速通信の)『5G』で競う新たなデジタル時代に、誰が上ったり歩いたりするかも分からない不確かなものにそんな金を出すのか」

「この(未来志向の)万博で、海や空を見るために(大屋根リングを)つくるのかと思うと、何とも不思議だ」

大屋根リングの建設計画が2020年12月に明るみに出ると、関西の経済界からは疑問や批判の声が上がった。

考案したのは、建築家の藤本壮介だ。

1971年、北海道生まれ。東京大学工学部を卒業して、建築家になった。

2000年に建築設計事務所を東京で立ち上げ、その後はパリにもオフィスを構えた。フランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞(ラルブル・ブラン)を受賞するなど、世界でも知られた建築家だ。

日本では「マルホンまきあーとテラス」(宮城県)、「白井屋ホテル」(群馬県)、「武蔵野美術大学美術館・図書館」(東京都)などを手がけた。

藤本によると、19年冬から20年春にかけて、建築家の視点から万博協会の関係者と意見を交わす機会があったという。万博協会からその後、パビリオンの配置なども含めて考える「会場デザイン」を引き受けてもらえないかと打診を受けた。

「最初は万博に対して懐疑的というか、全く意識もしていなくて、『今の時代に万博をやる意味はあるのかな?』と思っていた。納得したうえで引き受けたかったので、いろいろと本を買って、万博の経緯や課題を勉強した。

僕の中では1970年の大阪万博のような最先端、未来を見せてくれる『見本市』としての万博では、もはやないんだろうと。当然、今回もいろんな新技術が見られると思うが、アップルなど各企業が個別に新たな技術を発表する時代なので、そこが主役の状況じゃないよな、と」

〈ルポ大阪万博〉「今の時代に万博をやる意義はあるのかな」疑問を抱えた建築家が熟考の末、「大屋根リング」をデザインした思惑_2

「ただ、当時は米国のトランプ大統領が世の中を騒がせて、『分断』が叫ばれていた。そんな時代に世界の約8割の国・地域が万博という小さな1カ所に集まり、半年間も一緒に過ごすのはすごいし、クレージーで過激なコンセプトだなと。

(170年超の歴史がある)万博は1周回って、そのフォーマット自体にすごくポテンシャルがありそうだと感じた。建築家としても『世界が集まる場所をつくる』という以上にやりがいのあるプロジェクトはなかなかないと思った」

「東京五輪もそうだったし、万博も批判はあるだろうなとは思っていた。しかし自分は建築家なので、たとえ批判されてもつくり上げる側に回る方が、自分にとって納得感はあるんじゃないかと思い、引き受けた」

藤本は朝日新聞の取材(2024年7月)で、そう振り返った。