窃盗罪や威力業務妨害罪に当たる横取り行為
もちろん豚肉と牛肉の見分けがつかない人もいるため、悪気なく間違えて横取りしてしまった客も多少はいるだろう。しかし現在、日本全国のしゃぶ葉で、このような横取りが報告されているのだ。
なかには「1000円多く払いたくない」という理由で、安価な豚バラコースを選び、こっそりとロボットから牛肉を取る客もいるという。
こうした迷惑客を店側は訴えることができるのだろうか? 武雄法律事務所の大和幸四郎弁護士は、次のように解説する。
「自分が注文していないものを横取りする行為は、財物の占有者(事実上の支配者・管理者)の意思に反して、その物を自己または第三者の占有下(支配下・管理下)に移すことになるため、刑法235条の窃盗罪が成立すると思います。
さらに、横取り目的で入店すると、威力業務妨害罪(刑法234条)にも当たります。そして、裁判では『故意ではない』という言い訳は通用しません」
窃盗罪が成立すれば、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処される。つまり、しゃぶ葉での横取りは万引きと同じなのだ。
もしも、横取りの様子を店舗内の監視カメラで撮影されて訴えられたり、SNSに動画として投稿されれば、言い逃れはできない。
「当然ですが、店も慈善事業で食べ放題を提供しているわけではありません。利益が出るように価格が設定されているため、それを損なおうとする行為は、法益を侵害しているということで犯罪に当たると思います」(大和弁護士)
すかいらーくホールディングスの広報部は、
「今後も入店時にロボットの利用方法を説明するとともに、テーブル端末にて商品到着をアニメーションで表示し、『どの棚のお肉を取るのか』が分かりやすく伝わる機能を準備しております」
と再発防止策を検討している。
とはいえ、それで悪意のある客による横取りを防げるかというと、正直なところ難しそうだ。
現実的に、店側はどのような対応策を取るべきなのだろうか? 前出の大和弁護士は、こう語る。
「理想的なのはテーブルの区分けですよね。豚バラ食べ放題コースと牛&豚食べ放題コースを、かつての禁煙席と喫煙席のように完全に分離する。それができれば、悪意のある客を排除できるでしょう」
食べ放題は、何をしてもよい無法地帯ではない。ルールを守って楽しむ食のエンターテインメントである。
ネコ型配膳ロボットも、混雑を防ぎ、人件費を削減するために導入されている。それは、高校生や学生など誰もが安価に食べ放題を楽しめるようにするためだ。
その善意を踏みにじるような行為は決して許されないだろう。
取材・文/千駄木雄大