ハラスメントも公益通報も「最終判断は司法が行なう」
ただ、Aさんが不服を申し立てなかったことには事情があると同僚職員は話す。
「発信者をAさんと特定した斎藤知事は直後の昨年3月27日の記者会見で、告発を『事実無根』『嘘八百』と非難し、Aさんを『公務員失格』と断罪しました。これで知事が態度を改めないと悟ったAさんは4月4日に県の窓口にほぼ同じ内容の通報手続きを取っています。
さらに人事委員会に不服申し立てをしない理由についてAさんは『自分は(処分を担当した)人事課のOBです。人事課の職員たちがどんな思いで仕事をしているか、分かっているつもりです。その後輩たちを訴えることがどんなに辛いことかご理解いただいきたい』と書き残しているんです」(同僚職員)
Aさんはこの訴えを書いた後、昨年7月に急死した。
告発者探しの中で片山副知事がAさんの県公用パソコンを取り上げ、中にあった私的テータを井ノ本知明総務部長(当時)が関係者に見せて回っていたことが分かっている。
さらに当時、維新に所属し百条委メンバーだった岸口実、増山誠の両県議がこのデータの開示を求めていた。いずれもAさんを貶めることで告発には信用性がないと印象付ける狙いだったとみられている。
同僚職員が「このデータが出回ることに苦しんでいた」と話すAさんは「一死をもって抗議する」との家族に宛てたメッセージを遺し亡くなっているのが見つかった。自死とみられている。
約9か月間続いた百条委の調査では、現職の県職員の証言などで斎藤知事のパワハラや県による違法な公益通報者つぶしについて認められそうだとの見通しは出てきた。
これに備え斎藤知事は昨年末から、「最終判断は司法が行なう」と予防線を敷いており、報告書を受けての記者会見でも「ハラスメントについても最終的には司法の場で判断されるということも一般的ですし、公益通報も通報された方が公益通報についての争いをするということで、違法性の判断というものは司法の場でされる」と主張。
ところが記者から司法判断を知事から仰ぐのかと聞かれると斎藤知事は「私からはないと思います」と即答した。
「パワハラは被害を受けた職員が知事を訴えて勝たなければ認めないという意味でしょう。Aさんの処分については、遺族が取り消しなどを求める裁判を起こし、そこで勝訴しない問題があったと認めないということでしょうか」と、斎藤氏の言葉を聞いた県関係者は憤る。
さらにこの会見で斎藤氏は、A氏が県のパソコンで「倫理上極めて不適切なわいせつな文書を作成されてた」ことが処分理由の中にあると言い始めた。
「県人事課はこれに絡む処分理由では、『(Aさんが)業務と関係のない私的な文書を作成し職務専念義務等に違反した』としか発表していません。これよりも踏みこんだ内容を公表することは名誉棄損ではないかとの声も出ています。
井ノ本総務部長や岸口、増山両県議がやったのと同じことを知事はやろうとしていると感じます。こんな状況でAさんのご遺族が処分への異議申し立てをできるわけがない」(県関係者)