恨みは「病」になる

<恨みを持ち続けるということは、自分を惨めにしていくことです。人への恨みが自分を不幸に陥れ、笑顔になれるはずの時間を奪います。>

患者さんのなかには、夫の不貞に対して、積年の恨みを募らせる方も少なくありません。「もう20年も前のことだけど、今でも許せない」と、涙を流される姿に、私は「ご自分を大切になさってほしい」という気持ちでいっぱいになります。

自分に対して酷いことをした夫を、許すか、許さないか——夫が悪いのに、なぜ許さなくてはならないのか。許すと負けた気になるし、でも、許さないままだと心がつらい。何度も傷つけられたときのことを反芻していると、それは、今もその状態を体験していることになり、脳は強いストレスを感じて常に戦うモードになります。

夫の不貞を許すか、許さないか…93歳の心療内科医が、恨みは「忘れる」ではなく「かき消して」と説く理由_2

アドレナリンやコルチゾールが増加し心拍数や血圧が上がり、筋肉はこわばりからだはいつも緊張状態。この状態が長期化すれば、徐々にからだに影響が出てきます。免疫システムが抑制され抵抗力も低下し、病気にもかかりやすくなってしまいます。

その方には、私は、神経が過敏になってしまうときに処方する漢方薬をお出ししつつ、そのことを「ほんの少しでも考えない時間」を持つようお伝えしました。

許すか、許さないか。それを「考えること」をいったんやめる。考えそうになったら、別のことをする。浮かびそうになったらまた別のことをする。テレビのチャンネルを変える、誰かに電話をする、動画を見る、慌ただしいけれど、すぐに意識を変えるようにします。新しい習いごと、新しい人との関わり、部屋の模様替えもいいですね。恨んでいること自体を忘れる時間を増やしていく。

多くの場合、許すも許さないも「どっちでもよくなる」ように思います。