『卒業』は私にとって“運命の宝物”

1985年2月21日発売のシングル『卒業』で歌手デビューを果たした斉藤由貴。当時としては珍しく、デビュー曲にしてヒットチャートでトップ10入りする華々しい幕開けを飾ったが、当初は「歌うことは自分に合わないと感じていた」という。

「演技をすることは最初から大好きだったし、自分に合っていると思ったんです。(歳を取ってからでもできる)おばあちゃんの役柄もありますから、死ぬまで続けられたらいいなと思っていました。

ただ歌を歌うことに関しては、私の芸能界の入口がいわゆる“アイドル歌手”っていうジャンルだったので、最初からすごく違和感があったんです。特に、歌番組が本当に苦手で…。キラキラしているし、自分の価値みたいなものを一生懸命示さなければいけない気がして。

そんな違和感を抱えながら歌っていたところがあったので、いわゆるアイドル的な年齢を過ぎたら、自然に歌手としての活動は先細りしていくと思っていたし、実際にそうなりました。だから、まさかまたこんなに長く歌を続けさせてもらえるとは思っていなかったのが正直なところです」

『週刊明星』昭和62年3月12日号より 撮影/ 今津勝幸
『週刊明星』昭和62年3月12日号より 撮影/ 今津勝幸
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“アイドル歌手”というカテゴリーに違和感を覚えたという斉藤だが、『卒業』でデビューできたことは、自身にとって大きな出来事の1つだと語る。

「デビュー曲の『卒業』は、私にとって“運命の宝物”。たぶんこの曲がなかったら、歌手活動は全然違う方向性になっていたんじゃないかと思うんです。

私がとても運がよかったなと思うのは、ブレーンと言われる周りの人たちしかり、デビューしてから出会った人たちに恵まれたことです。

例えばマネージャーさんも、もちろん基本は社会人でビジネスですから、結果が出せなければダメなわけですけど、そこだけに執着するのではなくて、新しいアプローチに挑戦してみようと言ってくれる人でした。

『卒業』を作ったディレクターさんも、当時のステレオタイプ化されたアイドルのジャンルや路線に惑わされずに、『本当にこの人が輝ける作品を探そう』みたいな純粋な思いを持っていた方で。そんな人たちが周りにたくさんいてくれた気がします」