もっとも“濃い”曲が「もらい泣き」だった
ある日、楽器店でアルバイトをしていた溝渕大智さんが、素晴らしいメロディーを作ってきました。それがサビのフレーズです。
そしてまだ駆けだしの作曲家だったマシコタツロウさんと僕が同時進行でAメロとBメロを作り、何度も直して、3人のコライトというかたちでメロディーを完成させました。
そのメロディーに対して、アレンジメントを施す作業にも、だいぶ時間がかかりました。単にオリエンタルなものではなく、その当時のR&Bの匂いや1980年代っぽい要素も取り入れて、うまくミックスしたいと思ったからです。
そこで80年代のスタイルと同じ、打ちこみの正確なビートを土台に、デスティニーズ・チャイルドのエッセンスを加え、さらにオリエンタルな要素をミックスして「もらい泣き」を作りました。
イントロのループはオリエンタル、ビートは80年代調の打ちこみで、スパニッシュっぽいギターが入ってくるあたりにデスティニーズ・チャイルドの匂いが感じられると思います。
歌詞は曲ができあがったあとで、一青さんに書いてもらいました。
サビの〈ええいああ〉のフレーズは、この曲の歌詞でもとくに印象に残る部分だと思います。もともと一青さんは擬音を使うのが得意で、この〈ええいああ〉のフレーズはすぐにできました。
何度も練りなおしたAメロやBメロは、ちょっと聴いただけだと、90年代のJ-POPによくあるような世界観に聴こえるかもしれません。
実は「もらい泣き」のテーマのひとつはひきこもりです。一青さんは当時社会問題のひとつになっていたひきこもりについて、メッセージを投げかけようとしました。
一青さんの場合、どんな曲の歌詞でも、そのような投げかけを含んでいます。それが彼女の個性です。