「きっと歌ゆえに届けられる感動がある」

1990年代半ばには一度は歌手活動を休止した斉藤だが、追加公演を含む2008年に13年ぶりの単独コンサートを開催すると、毎年12月にクリスマスライブを行なうなど、再び積極的に歌に取り組んでいる。

歌手デビューから40周年を迎えた今年2月21日からは、全国8か所を巡るホールツアー「斉藤由貴 40th Anniversary Tour “水辺の扉”〜Single Best Collection〜」もスタートさせた。

全国ホールツアーの開催は、実に36年ぶり。『卒業』をはじめ、多くの楽曲にて編曲を手掛けた音楽プロデューサーの武部聡志とともに、ツアーに挑む。

「武部さんがアレンジャーとして関わっていただいたシングル曲を中心に、すべて当時のオリジナルアレンジのままお届けしますよっていうのが1つの大きなコンセプトなんです。

ただ当然のことながら、アレンジは当時のものだけれど、歌うのはそれから40年の人生を生きてきた今の私。そのすり合わせが、とても大変なことなんですね。

『40周年だから歌います』って納得できればいいのかもしれないですけど、なんとなく私の中ではそれだけだと面白くないなというか。自分の中で、昔のアレンジを今の私が歌うことの答えというか、なにか確たるものを持って臨みたいって」

その答えを見つけるのが難しかったと語る斉藤だが、リハーサルを重ねることで考えがまとまってきたという。

「今言ったこととはものすごく逆なことを言うようですけど(笑)、自分が納得することにこだわりすぎてはいけないっていう発想になっています。

デビュー曲『卒業』からの楽曲をオリジナルアレンジで、今聴きたいと思ってくださるお客さんがいる。私はあれからさまざまな人生を歩んだし、聴きに来てくださる方も同じようにさまざまな人生を過ごしてきた。

ステージの上と客席という境目みたいなものはあるのかもしれないけど、『お互いにここまで頑張ってきましたね』『あのときからここまで時間が経ったんだな』って思っていただくような手渡し方。それが、今回のツアーに関して言うならば正解かもしれないと思っています」

40年の月日を経た今、斉藤は歌という表現の楽しさをどのように捉えているのだろうか。

「ものすごい当たり前のこと言うんですけど、演じることと比べてその違いは『音楽がある』っていうことですよね。

音楽って世界中どの場所に行ってもあるもので、その旋律、調べは、演じることよりももっと奥に届く根源的な何かをはらんでいるし、きっと歌ゆえに届けられる感動がある。

歌わない時期もありましたけど、また歌を歌うようになって、心から歌というものを楽しめるようになってきました。

アイドル歌手っていうものに対して、なにか偏見や嫌悪感がね、私の中で根強かったんですね。そういうこだわりは、今思えばとても子どもだなと思うんですけど(笑)」

後編では、斉藤にとって大きな軸の1つである「演技」について聞いていく。デビュー当初から「長く続けていける」と感じた演技の仕事だが、出世作であるドラマ『スケバン刑事』には大きな戸惑いがあったという。

取材・文/羽田健治