トランプ氏、WHO脱退を表明

今月20日、トランプ米大統領がWHOの脱退を進める大統領令に署名した。

脱退の理由として「WHOが、2020年に新型コロナウイルスの感染拡大や、そのほかの世界的な衛生上の危機への対処を誤った」と批判したうえで、人口が米国の約4倍に匹敵する中国(拠出額約2億ドル)に比べ、米国が求められる拠出額が多額(拠出額約9.5億ドル)なことを挙げた。

トランプ氏は第一次政権時代にも脱退を表明していたものの、その準備期間中に政権がバイデン氏に交代したことで、結果的にWHOに留まる形となった。

再び脱退を表明したトランプ氏に対し、WHOは「遺憾に思う」という趣旨の声明を発表。

声明では「疫病の根本原因に対処し、緊急事態の検知、予防、対応することによって、アメリカ人を含む世界の人々の健康と安全を守るうえで、重要な役割を果たしている」としつつ、「WHOとアメリカは70年以上にわたり、数えきれないほどの命を救ってきた。パートナーシップを維持するために建設的な対話ができることを期待している」とした。

トランプ氏はWHOの脱退表明のほか、米国に生まれたら無条件に米国籍を得られる「出生地主義」の廃止や「パリ協定」離脱、「米国を人工知能(AI)の世界首都にすることを目指す」など着任早々、大統領令を連発している。

そもそも「大統領令」とは、どれほどの権限を有しているのか。米国政治を研究する成蹊大学法学部の西山隆行教授に話を聞いた。

「大統領令とは、『署名一つで政府や軍に命令できる強力な権限』ともいわれますが、あくまで行政部門を律するためのもので、アメリカ連邦議会が執行に必要な予算をつけない限りは効力を持ちません。中南米諸国と比べ、米大統領の権限は非常に限定されているのが特徴です」(西山教授、以下同)

ではWHOの脱退は大統領令で現実的に可能なのか、と尋ねると、

「それは可能です。どの国がどういう判断を下すかは自由です。ただ今回、アメリカがそんな簡単に脱退してしまうことに多くの人が驚いたと思います。

大統領が結んだ条約も、連邦議会上院の承認がなければ国内法の下では効力を有しませんし、撤回するにも議会の手続きが必要になります。ですが、行政協定だったら大統領令で撤回することができます。近年のアメリカは国内の政党派閥の対立が激しいので、条約ではなく行政協定を結ぶことが基本という形が続いてきました。

もっとも政権交代が起こったとしても行政協定が覆されるようなことは通例ではありませんでしたが、トランプ氏はどんどん覆す予定のようです。それを続ける限り、アメリカの国際社会での安定性が低下して、信頼度は損なわれていくでしょう」

米国の脱退を「遺憾に思う」と声明を出したWHOのテドロス・アダノム事務局長(写真/shutterstock)
米国の脱退を「遺憾に思う」と声明を出したWHOのテドロス・アダノム事務局長(写真/shutterstock)