プーチンはKGB出身者で初の指導者
「自分たちの権限を守るために、連中は外に対して攻撃的です。外国だけでなく国内でも政府に反抗する者は攻撃対象になる。ウクライナ領のクリミアに侵攻したロシアが何をやっているか知っているでしょう。独立国家を戦車と対空ロケットで攻撃する。時代錯誤もはなはだしい」
ソ連・ロシアの現代史にあって、プーチンは特異な存在なのだろうか。
「これまでの指導者とは明らかに違う。ブレジネフ(18年間に渡ってソ連の最高指導者を務めたレオネード・ブレジネフ)は平凡な人間で、ゴルバチョフ(ソ連最後の最高指導者、ミハイル・ゴルバチョフ)は無学だった。だから、それほど危険でもなかった。プーチンは『アプショイリッヒ(不快)』なんだ」
突然、ドイツ語が出てきた。
プーチンは通訳ができるほどドイツ語が流暢だ。その人物を表現するためか、ゴルジエフスキーもドイツ語を使った。スパイになるためゴルジエフスキーは多言語を学び、ドイツ語と英語のほかスウェーデン、デンマーク、ノルウェーの言葉も自由に操る。
「プーチンだけがアプショイリッヒなんですか」
「歴代指導者と同じように考えると間違います。秘密情報機関の申し子がリーダーになった。これはロシア史上初めてです」
ゴルジエフスキーは80年代後半からのソ連・ロシアの指導者について解説した。ゴルバチョフはモスクワ大学で法律、エリツィンはウラル工科大学で建築、そしてプーチンはレニングラード大学(現サンクトペテルブルク大学)で法律を学んだ。三者はみんな大学教育を受けた点で共通している。
「ただ、ゴルバチョフとエリツィン(ロシアの初代大統領、ボリス・エリツィン)が卒業後に共産党でキャリアを積んだのに対し、プーチンはKGBに入っている。彼は若いころからKGBにあこがれていた。KGBに育てられた者が国を指導している。多くの独裁国家は軍の出身者が国を率います。でも、スパイがリーダーになるのは珍しい。少なくとも過去のソ連・ロシアにはいない」
「ユーリ・アンドロポフはKGB議長からソ連共産党書記長になっている」
「私がKGBにいたころの上司です。ユーリは共産党でキャリアを積み、その後でKGBのトップに就いた。諜報の実務を知っているわけではない。KGBではなく党の人間です。一方、プーチンは党で出世したわけではない。KGB出身者で初の指導者です」
「だから外に対して攻撃的になると?」
「KGBにいると、外の者が信じられなくなる。まずは疑ってかかる。入ってすぐに、そう教育される。だからプーチンは、KGBや治安機関の出身者を政権に入れている。外の者を信じないからだ。今ではKGBを中心にした治安・秘密情報機関が与党だ。かつては共産主義国家だったでしょう。今はKGB国家です」
確かに、ロシアの社会学者のオルガ・クリシュタノフスカヤは、プーチンが政権を握って以来、政府の要職にKGB出身者と軍人が多数就いているとの調査結果を2003年に発表している。しかし、プーチンの後任として一時、大統領になったメドベージェフはKGBに所属していない。
「彼はレニングラード(現サンクトペテルブルク)出身で大学もプーチンの後輩です」