元明石市長で衆議院議員も務めた泉氏の恩師にあたる、石井紘基の死から22年。石井氏と生前交流のあったジャーナリストの今西憲之氏を司会に、今回の本で泉氏と対談を行なった、石井紘基をよく知る3名もゲストとして登壇。

石井氏の長女である石井ターニャ氏、石井氏と共にカルト被害者救済に尽力してきた弁護士の紀藤正樹氏、そしてzoom出演で、石井氏を財政学者として再評価している経済学者の安冨歩氏が、「今を生きる石井紘基」をテーマに、日本のこれからを泉房穂と語った。

*本稿はイベントの談話を記事用に編集したものです。

真理を見抜く力を持っていた石井紘基

石井さんと他の国会議員の大きな違いは、やはりその思想的な深さだと思うのです。ソ連というシステムをあらわに見て、かつその暴力性を深く理解し、それと同じ構造が日本にあるということに戦慄しておられたと思うのです。ですから石井さんが亡くなられた状況にしても、今のプーチン政権下で、システムに都合の悪い人間が次々に消えていくこととよく似ているし、それは国家システム、関所システム全体が「この人物は危険だ」というふうに感じて、それで消したのではないかと思うのです。もちろんそれは誰かが意図して、誰かに命令してやらせたと思うのですが、全システムの総意として、「石井紘基を消さなければならない」というような暗黙の意思決定が行なわれたと思うのです。〈安冨歩 『わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇』より〉

経済学者で東京大学名誉教授の安冨歩氏。2010年代から、東大の授業で石井紘基の著書を教科書に使うなど、石井紘基の「財政学者」としての業績を初めて評価した人物といえる。この日のトークイベントにはzoom出演で参加した。

今西 今回こちらの『わが恩師 石井紘基が見破った 官僚国家 日本の闇』という本で、自ら対談に出てみよう、泉さんとしゃべってみようというお気持ちは、どの辺りからありましたでしょうか。

安冨 これは私自身が石井紘基の本を書きたかったということがあります。ただ、書き切れなかったんですね。基本的には個人的に忙しかったということだと思いますが。それとともに、石井紘基という人の本を書くためには、生前にご存知の方々に話を聞かないといけないし、私では書けないなと思っていました。

そしたら、泉房穂という政治家がいて、石井紘基の弟子だということを知ったので、一度お話を聞きたいなと思って、まだ明石市長をなさっているときに、『はらっぱ』(子ども情報研究センター)という子どもを守るための団体の機関誌の連載でインタビューさせていただいて、それからお話をさせていただくようになりました。

その泉房穂さんがこうやって本を出されるということだったので、そこで対談をさせていただいて私の考えを述べさせていただければ、自分では書けなかった石井紘基の本を出せると。もし私が一人で書いても多分誰も読まないと思うんですけど、泉さんが出されたら大変よく読まれていて、二重の意味で本当にすばらしいことだったなと思っています。

安冨歩氏
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今西 それで、私が感心したのは、石井先生がいわゆる民営化というものに強く反対をしてこられた。特殊法人などを民営化すると、国政調査権すら及ばなくなる。そうすることによって、官僚のやりたい放題になるということを予告していた。それが実際そのとおりになりました。

私も長く石井先生と交流を持たせていただいて、やはり特殊法人の民営化に石井先生はすごく危機感を抱いておられて、改革しないといけないというお話をよくされておられました。先生は経済が御専門なので、詳しくお尋ねできればと思います。

安冨 戦前の日本は、官僚のほかに軍人(陸軍、海軍)がいて、宮廷があって、財閥があったんですね。議会と合わせて「五権分立」と言ってもいいかもしれません、そういうふうに権力が分散的だったのです。

ところが、戦後の日本というのは、GHQの介入によって財閥が解体されて、宮廷が解体され、陸軍、海軍が解体されて、残ったのは官僚システムだけでした。そうして戦後の日本は、官僚システムのみが支配するような経済や社会に変わってしまったのだと思っています。

このことはなぜ起きたかというと、アメリカがそうやって官僚中心のシステムにしてしまうことによって支配を、安定的な支配をできるというふうに設計したのではないかと思うのですが、これは単なる仮説で立証はまだできていません。ただ、そうではないかと思っています。

それで、国民の目から全く届かない形で間接的な支配のシステムをつくって、その官僚システムの中に複雑怪奇な構造をつくり、見えないようにして官制経済というものをつくり、国民を搾取しているというのが基本ですね。

プライバタイゼーション、いわゆる民営化というのは、本来はそういうシステムを解体する目的で行うものです。これは日本に限ったことではなくて、官僚的システム、国家システムが市場の経済システムと大きく相互依存関係になって、そこに巨大な搾取構造をつくっていく。そういう形を取っているのは多分世界共通だと思います。これに対する攻撃が、本来の民営化です。

ところが、日本で実際に起きたことは、民営化と称して、公金の流れを国民から完全に見えないようにする、その方法を思いついたということで、これは常に官僚システムがやることですね。何か理由をつけて、たとえば、「医療を拡大しなければならない」という名目で国民皆保険制度をつくっているのに、実際の目的は何かというと、そこに巨大な利権システムをつくることであったりする。

その巨大な一例が、郵便事業の民営化だと思うのですが、その民営化に賛成する、反対するという議論はずっと行われてきましたが、石井紘基のように「民営化は利権を隠蔽する手段である」と見抜いた方は、やはり少なかったのではないかと思います。

私は大学に勤めていて、国立大学法人化、大学院重点化を経験したんですけれども、ある大学の、それに反対しておられた先生が、法人化の目的は何かというと、「国立大学を文部科学省の天下り先にするためだ」と言っておられました。実際そうだったんですね。日本の国立大学は、国立大学法人化と大学院重点化とによって、官僚の天下り先になってしまいました。

私自身がこの様子を身を以て体験していましたので、石井紘基の主張がその現実と完全に一致していることから、石井の「真理を見抜く力」に感銘を受けるとともに、「真理を見抜くということは予言ができるということなんだな」と思うようになりました。