黎明期、2ちゃんねるの罵詈雑言は「知的な遊び」でもあった
そもそもこれだけ情報が溢れている中で、常に「正しい答え」だけを選び取り続けるのは不可能に近い。……にしても、である。「なぜ、そんなものを熱く信じるのだ」というレベルの明らかなデマまで、“マスメディアが報じない真実”として広く流布され、投票行動にも影響を与えている。
自民党はSNS上での虚偽情報や誹謗中傷の拡散に対して具体的な規制策の検討を始めたが、先の斎藤兵庫県知事の件もある中で、政党側からの規制がどこまで具体的になるかも想像がつかない。そもそも現代の陰謀論はどのようにして生まれたのだろうか。
「一つにはネットユーザー全体のリテラシーの低下がありますよね。ネット黎明期のユーザーは、相対的にリテラシーが高く、過激な言葉や荒唐無稽な情報も“ネタ”として消費していたけど、今はそうじゃない」とモーリー氏は語る。
インターネット黎明期(1985年頃からの10年間)、ネットユーザーは一部の技術者や研究者などに限られており、密度の高いコミュニケーションが繰り広げられていた。その後、1990年代後半から2000年代初頭にネットが一般化するにつれ、匿名掲示板が多くの人々の意見交換の場となった。
その象徴が「2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)」だ。
初期の2ちゃんねるでは、経済や政治、時には社会問題に対する匿名だからこそできる自由な議論――抽象度の高い表現や高度な皮肉が飛び交う対話――が行なわれていた。
「当時から罵詈雑言は飛び交っていたけど、一定の知的水準が維持される生態系があった。過去を美化するわけではないですが、当初の2ちゃんねるは悪趣味ではあるけれども"知的な遊び場"だった。例えば、【マスコミが報じない事実】は昔から存在したんです。基本的にクライアントのことは悪く言えませんからね。でもそれを言ったら野暮だよね、という会話を楽しんでいました」
いっぽうで、2ちゃんねるでは誹謗中傷、女性嫌悪(ミソジニー)、差別的言説が拡散されたり、炎上文化を助長したという側面も否定できない。
「匿名でなければ言えない差別的言説は、不満を持つものの本音として、そこにありました。ユーザーが増えるに伴い、掲示板の治安も悪化。ときに“祭り”に発展したり、企業に対するハラスメント行為に出るなど暴走し始めたり…。その後、連帯してデモまでする集団もいましたが、本人たちはそれすらネタというか、悪ふざけの範疇だったように思います」