「命が短い」という認識で自由に生きる

――その一方で『沸騰大陸』には非常に残虐な、目を覆うようなエピソードも出てきます。

確かにそうですね。誘拐した女の子に爆弾を巻きつけて、市場に誘導して爆破したりとか、大きなビルを建てるために、建設現場に子どもを生贄として生き埋めにしようとしたりとか、そういうことが平気で起こる。

法律もあまり機能しているようには見えないし、犯罪行為に歯止めのかかりにくい社会であるのは事実です。

その大きな理由のひとつは、平均寿命が短いからではないかと思うんです。内戦もあり、事故もあり、病気があるのに、病院も医師もものすごく少ない。ちょっとしたことで人が亡くなる。自分もいつ死ぬかわからない。

我々と比べると、相対的に「命が短い」という認識があって、だからみんな欲望のままに、激しく生きようとする。過激な暴力に加担する人もいるし、人を激しく愛したりもする。

――ひたすら長寿を願い健康を気遣う我々の世界とは対極的です。

ただ、そんな真逆の世界だからこそ、僕らが学べることってすごくあると思うんです。一言で言うと、僕ら日本人は、もっともっと楽しく生きていい。もっと喜んでいいし、もっと悲しんでいいし、もっと自分の中にあるものを爆発させていい。

人目を気にして型にはまって生きることに、どれほどの価値があるのか。いつも組織や上司の評価を気にして、その家畜のような人生をまっとうしたときに、誰に「評価」してもらうのか? ばからしい。自分の人生は自分で選び、自分の評価は自分で決める。

アフリカの人々の自由に生きる姿を、僕らはあらためて見つめ直す必要があると思うんです。


取材を共にし続けた現地助手と=南ア・ヨハネスブルクで 写真/三浦英之氏提供

取材を共にし続けた現地助手と=南ア・ヨハネスブルクで 写真/三浦英之氏提供

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――そうした何にも縛られない自由というのは、日本では特に難しく感じます。

ただ、誤解を恐れずに正直に言えば、日本は世界的に見ても断トツに平和で住みやすい国なんです。治安もいいし、食事もおいしいし、人々は優しいし、温泉もあって、文化はユニークで、サービスも素晴らしい。こんな国、世界中探したってありません。

一方でひどく不幸に見えるのは、人々があまりにも周囲の目を気にして生きているということ。それは古くから続く家族制度のせいかもしれないし、学校の教育のせいかもしれないけど、これほど治安が保たれて統制がとれているがゆえに、そこから少しでもはみ出ると、「出る杭は打たれる」。

今の日本で、生きづらさを抱えてる人とか、閉塞感を抱えてる人ってものすごく多いと思うんです。そういう人こそ、『沸騰大陸』を読んでもらうと、「ああ、人はこんなにも自由に生きられるんだ」と思っていただけけるんじゃないかと思うんです。

アフリカには問題もいっぱいあるけれど、生きるヒントもいっぱいある。ガラクタも宝石もゴチャゴチャになって詰め込まれている、まるで「おもちゃ箱」みたいな大陸です。

#3に続く

取材・文・撮影/集英社学芸編集部

沸騰大陸
三浦英之
沸騰大陸
2024/10/25
2,090円(税込)
224ページ
ISBN: 978-4087817607

「生け贄」として埋められる子ども。
78歳の老人に嫁がされた9歳の少女。
銃撃を逃れて毒ナタを振るう少年。
新聞社の特派員としてアフリカの最深部に迫った著者の手元には、生々しさゆえにお蔵入りとなった膨大な取材メモが残された。驚くべき事実の数々から厳選した34編を収録。
ノンフィクション賞を次々と受賞した気鋭のルポライターが、閉塞感に包まれた現代日本に問う、むき出しの「生」と「死」の物語。
心を揺さぶるルポ・エッセイの新境地!

目次

はじめに 沸騰大陸を旅する前に

第一章 若者たちのリアル
傍観者になった日――エジプト
タマネギと換気扇――エジプト
リードダンスの夜――スワジランド
元少年兵たちのクリスマス――中央アフリカ
九歳の花嫁――ケニア
牛跳びの少年――エチオピア
自爆ベルトの少女――ナイジェリア
生け贄――ウガンダ
美しき人々――ナミビア
電気のない村――レソト

第二章 ウソと真実
ノーベル賞なんていらない――コンゴ
隣人を殺した理由――ルワンダ
ガリッサ大学襲撃事件――ケニア
宝島――ケニア・ウガンダ
マンデラの「誤算」――南アフリカ
結合性双生児――ウガンダ
白人だけの町――南アフリカ
エボラ――リベリア
「ヒーロー」が駆け抜けた風景――南アフリカ

第三章 神々の大地
悲しみの森――マダガスカル
養殖ライオンの夢――南アフリカ
呼吸する大地――南アフリカ・ケニア
「アフリカの天井」で起きていること――エチオピア
強制移住の「楽園」――セーシェル・モーリシャス
魅惑のインジェラ――エチオピア
モスクを造る――マリ
裸足の歌姫――カーボベルデ
アフリカ最後の「植民地」――アルジェリア・西サハラ

第四章 日本とアフリカ
日本人ジャーナリストが殺害された日――ヨルダン
ウガンダの父――ウガンダ
自衛隊は撃てるのか――南スーダン
世界で一番美しい星空――ナミビア
戦場に残った日本人――南スーダン
星の王子さまを訪ねて――モロッコ

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