「感情」と「空気」が真空パックされた1冊

――三浦さんのアフリカ4部作のうち、最初の3作はそれぞれ大きなテーマ、いわばアフリカで隠蔽されてきた「不都合な真実」に光を当てた力作でした。一方、今回の『沸騰大陸』は、それらの闇の近くに確かに存在する、見落とされがちな現地の人々の生活、小さな生の輝きに焦点を合わせた作品です。三浦さんの中で『沸騰大陸』はどのような位置づけですか?

三浦英之(以下同) 『日報隠蔽』『牙』『太陽の子』といった大きなテーマでは描くことができなかった、アフリカで暮らす、市井の人々の生活を描きたかったんです。

集英社の情報サイト「イミダス」で連載を始めるとき、押し入れの奥に押し込まれていた、アフリカ特派員時代の資料を詰め込んでいた段ボール箱を開けてみたら、大量の未発表のメモや写真が出てきた。汗にまみれたメモ類に1日がかりで目を通した後、「ああ、これは行けるな」と思いました。

当時の「感情」や「空気」が真空パックされたようにそのまま詰め込まれている。僕がアフリカにいたのは7年以上も前のことですが、今読んでもまったく古びていない。それらを再結晶化したのが今回の『沸騰大陸』です。


アフリカに滞在したのは2014年8月から2017年8月までの約3年間

アフリカに滞在したのは2014年8月から2017年8月までの約3年間

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――「生け贄」として埋められる子どもや、78歳の老人と結婚させられる9歳の少女、銃撃を逃れて毒ナタを振るう少年などなど、印象的な短編ルポ・エッセイが34編収録されており、構成の点でも過去の3作品とは趣が違います。

アフリカ特派員時代はサハラ砂漠以南の49カ国を担当していました。結局行けたのは35カ国前後。そのうち『沸騰大陸』には25カ国のエピソードを詰め込んでおり、アフリカという多種多様な人々が生きる大陸を、なるべく多角的にとらえられるよう構成しています。

――作品の隅々から、現地に生きる人々のリアルな息遣いが伝わってくるようです。未発表の取材メモを元にした作品ということでしたが、驚くほどに生々しく感じました。

僕は2000年に新聞記者になって以来、その日に取材したり見聞きしたりした出来事については、「マイ・ルール」としてできる限り、その日のうちにメモにして残すようにしています。その際、「メモには絶対、嘘は入れない」というのが鉄則です。

後日、メモを作ろうとすると、どうしても記憶があやふやになって、人間って自分の都合のいいように記憶を作り変えちゃうんですよ。だから、できる限りその日のうちに、自分で見たこと、聞いたこと、思ったことだけをメモに書く。A4の1~3ページぐらいにして、写真をプリントしたものや資料も含めて全部、ポケットファイルに入れておく。そんな大量のメモ・ファイルが、僕の机の上にはあと8冊ぐらい並んでいます。