立てこもり犯は長い刃物を人質の少年の首に当てていた
〈長らく蒸発していたキン肉王家の長男アタル。その人物像を紐解くうえで欠かせないのが「超人血盟軍」結成過程の立ち振る舞いだ。旧西ドイツでスカウトを受けたブロッケンJr.、アシュラマン、バッファローマン、ザ・ニンジャの4人は、アタルの言葉に心を揺さぶられ、気になってアタル扮する新キン肉マン ソルジャーの跡をつけ始める。〉
ここからがアタルの真骨頂だった。4人の尾行を知ってか知らずか、アタル版ソルジャーはドイツの街を徒歩で移動中、立て籠もり事件に遭遇する。息子を人質に取られた母親が通行人に救出を懇願するも「警察に頼んだ方がいい」と正論で返されるばかり。たまりかねたブロッケンJr.が救出に向かおうとするが――。
その場にいた通行人男性が証言する。
「僕たちがオロオロしていると、後ろの方から地元の軍服超人(ブロッケンJr.)が飛び出してきたんです。すると、迷彩服のマスク超人(アタル)が、背中に目が付いているかのように、振り向きもせず『待て』と軍服超人を制止しました。
フェイスペイントをしたバンドマン風の立てこもり犯は、青龍刀のような長い刃物を人質の少年の首に当てていました。マスク超人は『犯人を刺激すれば子供の命が危ない』と軍服超人を諭したようで、彼は軍帽の下でハッとした表情を見せていました」
アタル版ソルジャーはおもむろに、立てこもり現場とは別方向にある塗料店へと歩み寄っていく。塗料店の老店主が振り返る。
「ワシは立て籠り事件に気づかず、外で作業をしておったんじゃが、そのマスク超人がやってきて、迷彩服の上着を脱ぎながら、置いてあったドラム缶入りの塗料を指して『オヤジ、このペンキは黒だな』と。そうだと答えると、マスク超人はいきなり上着をビリビリに破って、ドラム缶の中に浸したんじゃ。だが、本当に面食らったのはその後じゃった」