老人から予言された運命
袁了凡さんが子どもの頃、まだ袁学海(えんがっかい)という名前だったときのことです。ある夕暮れ、学海少年が住む家の前を白髪の老人が通りかかりました。
「これこれ、おまえさんは学海少年ではないか」
声をかけられた学海少年は、そうですと答えます。
「私は南の国で易を究めた人間だ。北の地に住む学海少年に易の真髄を教えよという天命が下ったので、わざわざおまえさんを訪ねてきたのだ」
その日の宿を少年の家でとることになった白髪の老人は、夜、学海少年のお母さんを前に話を始めます。
「お母さん、あなたはこの子を医者にしようと思っていますね」
学海少年は幼い頃にお父さんを亡くし、以来、お母さんと二人で暮らしています。
「はい。若くして亡くなりましたが、私の主人、つまりこの子の父は医者をしていました。お祖父さんも医者でした。代々医者をしている家系でございますから、この子にも医者になってもらおうと思っています」
「いやいや、この子は医者にはなりません。科挙の試験を受け、中国の立派な高級官僚として出世をしていくという運命になっています」
老人は次々と学海少年の未来を語り始めます。
「何歳のときに郡部の試験を受け、何人中何番で合格する。次に県の試験を受けたときには何人中何番で合格する。さらに、何歳のときにその上の試験を受けるけれども、そのときは不合格となる。しかし翌年、合格する。最後は北京で行われる試験に合格し、高級官僚の道を歩き始める。若くして出世し、地方長官として赴任することになる。結婚はするけれども、残念ながら子どもには恵まれず、53歳で天寿を全うする」
老人がお母さんに語る話を聞きながら、学海少年は「ヘンなことを言うおじいさんだな」と思っていました。
実は学海少年は、その後、白髪の老人が言った通りの人生を歩むことになります。何歳で何の試験を受け、何人中何番で通るということも、北京の試験に合格し、若くして地方長官として赴任することも、すべてが老人の言った通りとなっていくのです。