夢洲は「毒饅頭がいっぱい」

夢洲の現地を離れてから、案内してくれた藤永さんに大阪IRに反対する理由を聞いた。藤永さんは、この取材からしばらく後、ある訴訟の原告の1人となり、大阪市を提訴している。

それは、IR事業者への土地賃料が安すぎるとする裁判だ。夢洲の現場だけでなく、法廷や役所など各所に足を運ぶパワフルさに頭が下がる。

このインタビュー時にも藤永さんは、僕の質問に小気味よくポンポンと答えた。

――夢洲へのIR誘致に反対する理由を教えてください。

私はね、カジノ事業もあるけど、拠点とする夢洲というゴミの島の安全性についてずっと言ってきているんです。私は『大阪廃棄物(ごみ)問題研究所』をつくって、30年以上、ゴミ問題を追及してきています。万博もそうですが、夢洲は多くの人を集める場所にはふさわしくないという立場です。

――夢洲は土地として何が問題ですか。

メガソーラーがある西側は、大阪市域のゴミを燃やした後の焼却灰で埋め立てられています。ダイオキシンをはじめ有害物質がいっぱいですわ。

2019年4月、関西経済連合会は『夢洲まちづくり基本計画への提案』をまとめました。それによると、西側の場所は『グリーンテラス』(万博レガシー)として、活用することになっている。万博という期間限定ではなく、継続的に使うという考え方です。

大阪市は、廃棄物処理法に基づく管理型最終処分場規則に則り、50センチの土を積むと言いますが、そんなんでいいような状態ではない。下に毒饅頭がいっぱいあるから、『上にカバーをしたらええ』ちゅうもんやない。本当に使うならば、相当の浄化をしないとあきません。

――夢洲はどうすればいいと。

ゴミの埋め立て場所として延命するのがええ。さっき夢洲から『大阪湾フェニックス計画』による、大阪沖埋立処分場が見えたでしょう。この計画を進めていくと、ゴミ処理費用がかさみ、市民負担が間違いなく増えます。今あるメガソーラーぐらいはいいじゃないですか。けれど、夢洲はゴミ処分場として、そのまま置いておくほうが後世まで、うーんと役に立つ。そう考えています。

「ダイオキシンをはじめ有害物質がいっぱいですわ」大阪カジノ建設予定地・夢洲は本当に安全なのか?合格を出したはずの国の審査委員会も土壌汚染対策を再要望_4
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「合格」を出した国の審査委員会も土壌汚染対策を求めている。問題意識は、藤永さんと同じだ。現場を見ただけに、僕も対策の必要性を感じる。

晴れた週末のこの夢洲滞在は、約1時間半だった。それから、しばらくの時間が経つが、あの寂寥たるだだっ広い空間の記憶は鮮明だ。藤永さんからは、「万博開催、IR開業と続くとしても、夢洲は『所詮コンテナヤードの軒先』」との言葉も聞いた。そうしたこともあり、僕はかの地が賑わい続ける様子をうまく想像できない。

しかも、万博もIRもその行く末は、まだまだ波乱含みだ。そのため、僕はどうしても夢洲の排水管から出ていた「泡立つ水」を思い出してしまう。そして、万博・大阪IR共に、一時の「バブル」に終わることを懸念する。

写真/shutterstock
図/書籍『カジノ列島ニッポン』より

カジノ列島ニッポン
高野 真吾
カジノ列島ニッポン
2024年9月17日発売
1,100円(税込)
新書判/240ページ
ISBN: 978-4-08-721333-1

2030年秋、大阪の万博跡地でカジノを含む統合型リゾート (IR) の開業が予定されている。
初期投資額だけでも1兆円を超える、この超巨大プロジェクトは年間来場者数約2000万人、売り上げは約5200億円もの数字を見込んでいる。
カジノ・IRに関しては大阪のほか、市長選の結果により撤退した横浜をはじめ、長崎、和歌山でも開設の動きがあり、そして本丸は東京と見られている。
20代から海外にわたってカジノを経験してきたジャーナリストが、国内外での取材を踏まえ、現在進行形の「カジノ列島ニッポン」に警鐘を鳴らす。

◆目次◆
第一章 消えぬ「東京カジノ構想」の現場を歩く
第二章 海外から探るIRの真の姿
第三章 先行地・大阪の計画とは
第四章 不認定の長崎、こけた和歌山・横浜
第五章 ギャンブル依存症をどう捉えるか
第六章 国際観光拠点VS地域崩壊

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