「推しのため」の推し活

ゼミ生の田畑里菜さんと、「推し」のような非現実的な対象に感じるリアリティについて、そのファン・コミュニティの規模との関連から研究をしました。

アニメやマンガのキャラクターのようなフィクションである2次元の推しがいる人と、アイドルやスポーツ選手のように実在する3次元の人物を推している人を対象に、推し活の内容と心理状態について詳細なインタビュー調査をおこないました。

すると、推し対象が2次元か3次元かという差異は、推し活の種類へ実質的な制限をもたらすものの、課金額や時間、労力の違いにおいては、次元の差異よりも個人差のほうが大きいことがわかりました。

また、ファン・コミュニティの規模については、推しのファン・コミュニティの規模が大きいばあい、推し活は「自分の楽しみのためにしている」という回答が多く見られました。一方で、ファン・コミュニティの規模が小さいばあい、課金などの推し活は「推しを応援するため」「推しに喜んでほしいから」という回答が見られました。

ファン・コミュニティの規模の大小によって対象との物理的な距離感が変化し、推しへ「現実に」干渉できる可能性や程度が変わるため、推しとの心理的な距離感も変わると考えられます。

そのような物理的/心理的な距離感をファン本人が感知しているから、推しに対する意識や推し活の内容にも影響するのでしょう。

そして、推し本人からファンに対して応援などの要請があったばあいは、ファン・コミュニティの規模にかかわらず、「推しのため」という意識が高まることも示唆されました。

このことから、ファンが感じる推しのリアリティの強さとは、単に推し対象が2次元か3次元かということではなく、推し活をするファン・コミュニティのなかで感じる対象との物理的/心理的距離の近さや、対象からの直接的な働きかけと関連していると考えられます。

ホストやメン地下のお客/ファン・コミュニティは、いわゆるアイドルなどと比べてずっと小さいはずです。

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だからこそ、自分の行為がダイレクトに反映され、他のお客/ファンの行動もよく見えます。対象からの働きかけも個別になされるうえ、頻度や強度が高いでしょう。

通常の推し活が、現実生活とのバランスをとりながら「自分のため」になされるのとは対照的に、ホストやメン地下へのいれこみは、本来は非現実である存在のリアリティが強いため現実世界が侵食され、「推しのため」の推し活になっているといえるのです。

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イマジナリー・ネガティブ 認知科学で読み解く「こころ」の闇
久保 (川合) 南海子
イマジナリー・ネガティブ 認知科学で読み解く「こころ」の闇
2024年9月17日発売
1,012円(税込)
新書判/224ページ
ISBN: 978-4-08-721332-4
認知科学の概念「プロジェクション」とは、自分の内的世界を外部の事物に重ね合わせるこころの働きのことである。
プロジェクションには “推し”の存在に生きる意味を見出すようなポジティブな面がある一方で、霊感商法、オレオレ詐欺、陰謀論、ジェンダー規範など、他者によってこころを操られたり自分自身を無意識のうちに縛ったりすることでネガティブな問題を生じさせる面もある。
実際には起きていないことや存在しないものを想像して現実に投射できるがゆえに生まれる「イマジナリー・ネガティブ」を認知科学の視点で考察する一冊。
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