あえてアメリカ人的表現で自分を鼓舞

――23年のWBCの決勝でマイク・トラウト選手を三振にとった後、グローブを投げつけたのがすごく印象的でしたが、あのシーンを見たとき、大谷選手もすっかりアメリカナイズされたように感じました。

アメリカの風土も影響しているのかもしれません。日本ハム時代は、栗山監督、吉村GMなど、投手と打者のふたつをやるということを、疑いなくサポートしてくれる人がいました。もちろん、エンゼルスだってサポートを約束してくれていたとは思いますが、そこはやはり日本とアメリカの文化の違いで、本当に彼らの言葉を額面どおりに受け取っていいかどうかはわからない部分があります。

これは大谷選手に聞いたことはありませんが、アメリカでは味方がいない、ひとりで戦わないといけないという状況の中で、彼はあえてアメリカ人的な表現方法を使いながら、そこでひとりで戦っている自分を鼓舞しようとしたという面もあるのかもしれません。

9月19日、メジャー史上初となる「50-50」を達成(写真/共同通信社)
9月19日、メジャー史上初となる「50-50」を達成(写真/共同通信社)

――プレーに関していえば連日、驚かされることばかりですが、インタビューをされていて、大谷選手の底知れない恐ろしさのようなものを感じられたことはありますか?

今でこそ50-50も、ホームラン王も当たり前のように語られていますが、この一冊がスタートした時は、バッターとしてはホームラン20本、ひょっとしたら30本というのが僕の中では想像のマックスの数字でした。

そうしたものを大谷選手は軽々と超えてくるので、こちらとしては常に想像の斜め上をいかれる感じがあるのですが、この斜め上というのは、単に僕から見た斜め上であって、大谷選手からするとちっとも斜め上ではないんです。

実際にそう感じさせる言葉がインタビューの中でもたくさんありました。「ピッチャーとしてはゲリット・コールで、バッターとしてはマイク・トラウトで」みたいな、そういう名前がサラッと出てきて、そこまで自分は行く、あるいは超えるということを現実的に考えているわけです。

今となっては、大谷選手がそういうところを目指すことはまったく不思議ではないですが、かなり早い段階から、それも投打の2つをやりながら、両方で世界一になるということを現実的に考え、そして目指していたことには、あらためて驚かさます。

――ただ目指すだけではなく、具体的なイメージを持っているということですね。

はい。さらに言えば、それができると思っているし、だから目指すのだという。大谷選手から、そういう自信にあふれた言葉を聞くたびに、こちらとしては「やられた」「また上を行かれた」と思うわけです。