傑出した「イメージから逆算する能力」
――これまで多くの選手を取材されてきた石田さんから見て、大谷選手のそうしたイメージから逆算できる能力というのは、他の超一流の選手たちと共通するものですか? それとも大谷選手ならではのものなのでしょうか?
他の選手たちとは明らかに違うと思います。例えばイチローさんが2004年に、メジャーのシーズン最多安打記録を塗り替えた際、「小さなことを積み重ねることが、とんでもないところへ行くただ一つの道」と話したことがありました。ひとつひとつを積み重ねていった先に、想像もしない頂上があった、と。
大谷選手は逆で、最初から世界一、頂点の明確なイメージがあって、そこから逆算して歩みを進めているように思えます。彼は野球における頂点を「すべての能力が100ポイントの野球の神様」と表現するのですが、常にその場所を見据えながら、今、自分はどこにいて、頂点までどのくらい距離があるのかをイメージできているのだと思います。
もちろん、それはイチローさんその他、何人もの先人たちの存在が道しるべになっているからこそだとは思います。ただ、そんなアプローチをしていると感じさせられたのは大谷選手ただひとりです。
――その「イメージから逆算する能力」というのは、どのように育まれたのでしょう。
それについては、彼が映像世代であることも大きいと思います。NHKで大リーグの中継が始まったのが1988年で、野茂さんが海を渡ったのが1995年でした。1994年生まれの大谷選手は少年時代から、メジャーを含めた様々な映像を見て育ってきています。
理屈ではなく、見たものを自分で表現することが特別なことではない世代の中で、特に大谷選手は、映像を自分の中に取り込んで、それを再現する内的センサーが優れているように思います。日本にいたときからよく選手のモノマネをしていましたが、彼は人のフォームをぱっと見ただけで、自分の頭の中で映像を重ねあわせて、再現できてしまうんです。
それで言うと、アメリカに行ってみて最初にトラウトという偉大な選手が目の前にいたことも、彼にとってはすごく大きなことだったと思います。トラウトを見て、「なぜ、あんな打ち方であんなに打球が飛ぶんだろう」と、それを真似するところから、大谷選手のアメリカでのバッティングははじまっているんです。
――「野球翔年Ⅱ」は、大谷選手がメジャーで50本のホームランを打つことが当たり前ではなかった時代からの、貴重な肉声が記録されています。あらためて石田さんが、インタビューに込めた思いなどを教えてください。
実は日本編にあたる『野球翔年I』では一問一答形式の原稿は少ないんですが、『Ⅱ』ではほとんどを一問一答形式にしています。ただでさえ、1対1のインタビューを受けることがほとんどない大谷選手ですから、僕が変に解釈して地の文で加工するのではなく、ストレートに届けることで、大谷選手の言葉、息づかい、表情、そしてインタビュー時の空気感といったものが読者の方に伝わればいいなと思っています。
取材/集英社オンライン編集部