現代を生きる女性たちに読んでほしい働く女性を描いた小説

――『ヴィクロテ』は労働者階級のクリスと貴族階級に生まれたシャーリーの、身分差を越えた恋も読みどころの一つとなっています。

お金持ちの男性と結ばれるというシンデレラストーリーではなく、異種の者同士が恋に落ちた時に生まれる化学変化や面白さを書きたいと思っていました。シャーリーも本来であれば身分差の結婚に反対する立場なのに、それでもクリスを好きになってしまったという葛藤を掘り下げていきました。シャーリーに関しては私もちょっと悪ノリをしましたが、いい感じに育ってくれて、読者からの人気も高いキャラクターになりましたね。

――『ヴィクロテ』は1巻から好調だったのでしょうか。

じわじわと売れて、発売一ヶ月で重版がかかりました。『経費』のドラマ化が決まった時も嬉しかったけれど、『ヴィクロテ』1巻重版の知らせを受けた時が、20年間の作家生活の中で一番嬉しかった出来事かもしれません。

――クリスが作る「恋のドレス」や、身に纏った者を死へと誘う「闇のドレス」まわりの描写も読み応えがありました。

闇のドレス関連のエピソードはもう少し書きたかったのですが、そうすると読者は脱落してしまうだろうなと思ってやめました。後半は二人のロマンスを求める読者が多かったし、その判断は間違っていなかったと思います。

――全29巻の中で、とりわけ思い入れの深い巻はありますか?

シャーリーの家に初めて二人で行く『恋のドレスと陽のあたる階段』は、自分でも書いていてすごく楽しかったです。発売された時期に東日本大震災があって、読者の方に読んで元気をもらいましたと言っていただけたのも忘れられない思い出になりました。シャーリーの婚約者候補・アディルとクリスの決着がつく『聖夜の求婚』も、よく書けたと気に入っています。

『これは経費で落ちません!』などデビュー20周年・青木祐子の仕事歴_4
シリーズ中盤の2作品がお気に入り

――『ヴィクロテ』と『経費』、時代設定は違えども、働く女性を描いた両作品はいずれも現代を生きる女性たちに寄り添った小説です。最後に青木さんのファンへのメッセージと、今回のインタビューで初めて作品に触れた方へのメッセージをお願いします。

読者の方には、本当にありがとうございますとしか言いようがありません。これからも物語に浸っていただけたら嬉しいです。『経費』も『ヴィクロテ』もハードルは高くないので、未読の方はぜひこの機会に読んでみてください。

取材・文/嵯峨景子