「男として生きる」と言い聞かせて
エチカ・ミヤビは2022年、新興プロレス団体〈PPP.TOKYO〉でデビューした女子プロレスラー。ただし、女性は女性でもMtF(出生時に割り当てられた性別が男性で、性自認が女性のトランスジェンダー)である。2001年3月25日生まれの期待の若手だ。
「幼い頃から仮面ライダーとかに興味が湧かなくて、好きなのはディズニープリンセスやプリキュア。戦隊モノでも目がいくのは女子でした。友達と戦隊ごっこをしようとなれば、男子の多くはリーダーで主役っぽいレッドの役をやろうとするんですよ。
でも、私は『ピンクでいい』とポソッと言う感じ。周囲の大人は『控えめな子だな』なんて思っていたんじゃないですか。実際、小学校の途中くらいまでは内弁慶の引っ込み思案なタイプでしたけど」
自分の心は〝女性〟である。物心ついたときにはそうだった。
「ズボンではなくスカートがはきたくて、『なんでこっちはダメなの?』とかピーピー泣いては母を困らせていたみたいですね。本当に嫌だったんでしょう。母には『それは違うの、あなたは男の子なのよ』とたしなめられていたそうで。ワガママな子だと思われていたかもしれません」
だからといって、母に恨みはない。時代的にもそれが普通だっただろうし、仕方がないことだったと思っている。
「服は仕方ないけど、好きなものは否定しない母でしたから。仮面ライダーが嫌で、戦隊ヒーローではピンクの役が好き、みたいなことについてはダメとか言われませんでした」
母は未婚のままエチカを産んだ。今も誰が父親なのかは知らないし、記憶もない。祖母にも助けられながらエチカを育てた母は、大らかな人だった。こうして幼少期より、エチカはある意味、ありのままに生きてきた。だが、成長にするにつれ葛藤を抱き始める。
「小学校3年くらいからですかね。『男は泣いちゃいけない』『男らしくしなくては』みたいなことが嫌だったのですが、『受け入れなくちゃ』という自分も出てきました。そうするしかないというか」
小学校に入学以降、自分は普通に過ごしているつもりなのに、どうも自分は普通の男子ではないのかも、と感じることが増えた。生来の引っ込み思案が顔を出して、周囲の目が気になる。「普通ではない」自分をそのまま出し続けることに対して躊躇するようになった。
「強く自己主張できるタイプだったら、『いや〜ん』みたいな言葉づかいもできたのかもしれませんけどね。『女の子だったらよかったのに』なんて思っては、むなしくなったり」
高学年になると体毛が濃くなり出すなど、嫌でも自分の身体は男である現実を突きつけられた。
「見た目もけっこうイカツくなってきたんですよね。それで、もう男として生きていくしかないんだ、と自分に言い聞かせました。男として生まれた以上、そのほうがラクだろうと。
だから、女子の誰が好き、みたいな話が男子の間で始まってくると、心のなかでは『わかんねぇな』と思いながら、『○○ちゃんかな』とか話を合わせるようになりました」
葛藤と疑問を抱えつつ、男として行動するようになったエチカ。その行動の一環として熱中することになるのが、スポーツだった。