「明日、目が覚めますように!」と祈って眠る夜もある
──今回の記録がどういうものなのかを教えてください。
木村啓嗣(以下同) 無寄港、無補給での単独世界一周の日本人最年少記録です。北極と南極を結ぶ縦の線である経線をすべて同一方向に通過すると世界一周として認められます。無補給・無寄港なので、最初に積んだ荷物だけで帰ってこなければならず、燃料も食料も追加できません。さらに難しいのは、近道になる運河は世界一周のために通過することはできないんです。
──厳しいルールですね……。
寄り道、補給OKならば、世界一周した日本人は100人以上いますが、実は無寄港、無補給でも意外と簡単ですよ。みんなが行ったら9割くらいの人は帰ってこれるんじゃないかな?
この温度感が伝わらないんですよね。走るのは人ではなく船だから、難しくないんです。「明日の朝、目が覚めますように!」って祈って眠る夜もあるけど、船が沈まんかったら大丈夫やし。
──無補給ということは、食料をたくさん積んでいくのでしょうか?
1トン分積みました。1日中起きているので、1日5食の計算です。パックご飯にレトルトおかずが基本で、あとはコンロを積んでいるので余裕があるときはボロネーゼパスタを作るくらいかな。たくさん食べたレトルトのなかで、無印良品のものが最高でした。
──ヨットを操縦しなきゃいけないということは、1日中寝られないわけですか?
いえ、オートパイロットを利用して海が穏やかなときをねらって寝ました。15分〜2時間の細切れの睡眠を繰り返す感じです。寝坊するのは別に自由なんですが(笑)、寝る時間が長引くほどなにかにぶつかる可能性が上がります。
危ないのは他の船と浅瀬ですが、船が通るコースを外れていれば結構安心です。やはり睡眠は大事で、結局、睡眠をとっていないと戻ってこれないんですよね。
──難しくないとおっしゃっていましたが、寝られる精神力は必要なんでしょうね。
しんどい、きつい、と思っていると、単独行であることがよくない方向に働いてしまいます。音楽を聴いて、ご飯を食べて、歯をみがいて、いつも通りに過ごせれば、陸の上での1人の休日と変わらないんですよ。「1人でのんびりするのも悪くないよね〜」って感じになれます。
仮にトラブルがあって、船が壊れて直らなくても、初期対応をすませたらいったんご飯食べて歯磨きして寝ちゃいます。
とはいえ、オートパイロットの壊れたメイン機をサブ機に切り替えたら、いきなり水流板(船の進行方向を変える板)を動かす船内のベース(水流板に動きを伝える棒)が吹き飛んでしまい、相当焦りましたね。そのときは、「8時だョ!全員集合」のコント終了時のオチの音楽を流しながら乗り切りました!