きっかけは、自衛隊の離婚率の高さを知ったから?

──そもそも、木村さんがヨットを始めた理由は。

費用がかからなかったからですね。高校のヨット部が、保護者会の月会費1000円だけでヨットができるところだったんですよ。

──とても世界一周に至ると思えない動機ですね(笑)。

高校2年生のとき、前最年少記録保持者の白石康次郎さんが「ヴァンデ・グローブ」という過酷な単独世界一周のヨットレースに出場したのを知って以来、世界一周したいという気持ちはありました。でも、それって「将来お金持ちになりたい」くらいの夢でしかなくて。

高校を卒業したころは「よくある人生のテンプレ」にはまりつつあって、自衛隊に入り、普通に人生を過ごす予定でした。ところが、自衛隊に入隊して潜水艦乗りになって、先輩たちの離婚率の高さを知って、自分の人生、このままでよいのかと思うようになりました。

木村啓嗣さんのヨット・ミランダ号
木村啓嗣さんのヨット・ミランダ号

──離婚率ですか!?

自衛官になって人生安パイコースかなと思ったのに……。海上自衛官の離婚率は、7割以上らしいです。先輩を見ると奥さんに財布を握られたり、久しぶりに帰宅したら不倫現場に出くわしたり、楽しそうじゃないんですよ。陸上にいない間に奥さんに好き勝手されている先輩たちを見て、結婚前に自分がやりたいことをやったほうがいいと思ったんですよね。

そんな中、潜水艦の修理のために神戸の造船所に1年近く入港していました。西宮(兵庫県)ってヨットの街なんですが、久々の休日に乗りにいったら、ヨットがおもしろくて、ヨットへの愛が再燃し、世界一周したいと思うようになってしまって……。

決意を固めて、潜水艦の修理が終わる前に退職の意を伝えたら、上官に「いったいお前にいくらの税金がかかってると思うんだ」と言われました。確か潜水艦乗り1人育てるために3億円もかかるそうです。

すったもんだありましたが、結局、退官がかなって、2020年に株式会社浜田(環境ソリューション企業)に入社しました。実は今回の冒険はこの会社のプロジェクトとして実現しました。社長はもともと西宮のヨット仲間で力強く応援してくれました。

航海中に撮影した水平線に沈む太陽
航海中に撮影した水平線に沈む太陽

──潜水艦乗りはエリートなんですね。

というか、適性がある人が少ないんですよ。閉鎖空間に入ってもなんとも思わない人の集まりです。潜水艦は100メートルも潜れば全然揺れないからいいですよ。ヨットより全然乗り心地いいです(笑)。