マイケル・ジョーダンと1on1対決
同年秋、マイケル・ジョーダンが『HOOP HEROES』というナイキ主催のイベントで初来日することが決まる。
イベント中、小学生とジョーダンが1on1を行う催しが企画され、対戦相手の選考の場にいたのがショーンだった。
「日本人の上手な小学生をひとり知っている」
ジョーダンと対戦できるのはふたり。ショーンの一言のおかげで、僕がその内のひとりになった。
バスケの神様との1on1は、アメリカへの想いを一層強くさせ、2000年、僕はアメリカ・メリーランド州にあるモントロス・クリスチャン高校に進学する。
モントロスは何人ものNBA選手を輩出する名門校だ。在籍期間こそ被らなかったが、今大会のアメリカ代表の一員、ケビン・デュラントや日本代表のキャプテン富樫勇樹らが後輩にあたる。
モントロス卒業後、僕はコロンビア大学に進学。NBA選手という夢は叶うことはなかったが、日本人初のNCAAディビジョン1選手になることができた。そして大学卒業後帰国し、日本でのキャリアがスタートした。
その間、カーとの関係は細細とではあったが切れずに今日に至っている。
アメリカ代表練習を見学、リラックスした表情に松井は…
ラスベガスに話を戻そう。
練習見学のためにカーが用意してくれたのは、体育館の1階席だった。マスコミも立ち入ることができない、全米の強豪大学のコーチ陣やNBA選手、その関係者が占める特等席だ。
カーとの会話はものの数分で終わった。アメリカ代表HCは多忙だ。日本土産の東京ばな奈を渡しそびれたのが心の残りだったが、合宿は4日間続く。どこかで渡されるタイミングはあるはずだ。
カー以外にも会っておきたかった人物がいる。ケビン・デュラントだ。
パリで4個目の金メダルを狙うデュラントは、今大会も間違いなくキーマンになるが、ふくらはぎのケガのため合宿で別メニューを行うことが決まっている。
合宿4日目、デュラントと話をすることができた。
これまで何度か会ったことがある彼に「ケガの具合はどう?」と聞くと「大丈夫だよ」と即答。ケガの詳細までは打ち明けられないだろう。話題を変え「フェニックス・サンズの試合、いつか見に行くよ」と伝えると「その時は連絡してくれ」と僕の携帯を手に取り、自ら新しい連絡先を打ち込んでくれた。
211センチの長身ながら、繊細なシュートタッチがデュラントの武器だ。アメリカ代表の男子オリンピック史上最多得点記録(435得点)を叩き出した、その大きな手で操作すると、iPhoneがまるでオモチャのように見えた。
カーもデュラントも、表情はとてもリラックスしていた。体育館に姿を見せるアメリカ代表の面々も、それは同じ。
その表情は油断になりかねないのではないかかと最初は思った。アメリカ代表が金メダルの大本命なのは揺るがない。
しかし、カーが初めて指揮をとった2023年のワールドカップ準決勝でドイツに敗れているように、もはや世界とアメリカの差は、いつどんなアップセットが起こってもおかしくない。
パリでも足元をすくわれる可能性があるのではないか。そんなことを思いながらアメリカ代表の練習を見つめると、練習開始からものの数分で、その考えが間違いであることに気づいた。
取材/松井啓十郎 構成/水野光博