消費者が選択しやすい価格帯とは?
復帰した新井田傳氏が手始めに着手したのがメニューの再構成だった。
幸楽苑の主力商品は490円の味噌、塩、醤油ラーメン。原材料や光熱費、人件費の高騰が続く中でも主力商品の値上げは行わず、セットを強化。好みのラーメンにギョーザやチャーハン、チャーシュー丼が付けられるメニューを設けた。単純に注文するよりも80円~150円ほど割安になるが、利幅が高いために値引きはしやすい。
また、ラーメンの価格はそれぞれ590円、690円、790円、890円の中に収まっていれば、商品を選びやすいなどの原理原則があるという。それを踏まえたうえで、味噌バターコーンや塩バターコーンを760円から690円に改めている。
830円だったプレミアム醤油も760円に改定。原則から外れている中途半端な価格帯のものを思い切って値下げした。
新井田昇氏が社長に就任してからは、季節ごとに変化する新メニューの投入、新型コロナウイルス感染拡大によるメニュー構成の変更、物価高を背景とした一部商品の値上げなどを行った。
これらはいずれも創業当初の原理原則から外れていたものだった。幸楽苑の迷走ぶりを象徴したメニューがある。2020年に期間限定で発売したチョコレートラーメンだ。
醤油ラーメンをベースにカカオオイルを加え、チョコレートとショウガをトッピングしたというもの。その味については賛否が分かれるとして、この商品がバズを狙ったマーケティング先行のものであることは明らか。
確かに話題になったのは間違いなく、その後も期間限定で発売されている。しかし、幸楽苑の客層はロードサイド主体という特性上、トラックドライバーやタクシー運転手、現場作業員などがメイン。リピート利用を度外視した商品の投入には疑問が残る。
その点、価格のお得感を全面に出し、満腹感が味わえるセットメニューを強化したトップ交代後の幸楽苑の方がファンの信頼度は高まるだろう。
幸楽苑の代表的なメニューである「中華そば」はかつて290円だった。現在は490円だ。値上げによって客離れを引き起こしたとする報道もあるが、その価格に見合う価値が提供できている限り影響は限定的なはずだ。
家計調査によると、コロナ禍以降で消費者は外食にかける金額を増やしている。その代わりに外食頻度が減っているのだ。安いことだけがアピールポイントの時代は終焉を迎えた。
幸楽苑は価格先行から質重視の新たなフェーズに入ったように見える。
取材・文/不破聡