なぜ重症アレルギーと誤診されやすいのか
臨床の現場でアレルギー科医として診療にあたっていると、実際には化学物質過敏症であるにもかかわらず、別の医療機関で「重症のアレルギー疾患の疑い」と誤診された多くの患者さんに遭遇します。
ではなぜ、このような誤診が生じるのでしょうか。
化学物質過敏症という名前の通り、多種多様な化学物質などに過敏に反応して症状が出ることから、過敏症が一般的なアレルギーの一種ではないかと思われる方が多くいます。
しかしながら、体に生じる免疫学的・神経学的・代謝学的な反応は、アレルギーに伴うものなのか、過敏症や不耐症に伴うものなのかによって異なります。
発症のメカニズム、治療の方法、生命リスクの度合いに違いがあるにもかかわらず、過敏症、アレルギー、不耐症が混同されてしまっていることが、医師と患者さんとの間の誤解につながっているようです。
広義に、物質や環境への過剰な体の反応すべてを過敏症とするならば、アレルギーはその一部なのです(図1)。過敏症は免疫系の反応を伴わず、下痢、吐き気といった消化管系のものから、失神、めまいといった神経系のものまでさまざまな症状を引き起こし、疲労感、体重減少、鼻汁、悪心といった抽象的な症状があらわれることもあります。
では、アレルギーとは何なのでしょうか。
アレルギーとは、医学的に厳密に表現すると「ゲル-クームス分類(Gell and Coombs classification)」のⅠ~Ⅳ型アレルギーにあてはまる免疫学的反応のことです。1963(昭和38)年に英国の免疫学者ゲルとクームスが提唱した4つの分類法(I~Ⅳ)が広く用いられています。
反応に関与する細胞や抗体の違いから、I型は即時(アナフィラキシー)型、Ⅱ型は細胞傷害(融解)型、Ⅲ型は免疫複合体型、Ⅳ型は遅延型と言います。
アレルギーの原因物質は「アレルゲン」または「抗原」と呼ばれます。ダニアレルギーならば、ダニに由来するタンパク質がアレルゲンであり、このアレルゲンに反応する抗体や免疫細胞の相互作用によってアレルギーの症状が誘発されます。
ただ、自分の免疫反応の暴走による気管支喘息や、皮膚のバリア機能の異常によるアトピー性皮膚炎のように、すべてのアレルギー疾患にアレルゲンが関与するわけではありません。
基本的には、何か環境由来のものが症状を誘発する契機となるアレルギー疾患においては、アレルゲン(抗原)とそれに反応する抗体(免疫)とは1対1の関係なのです。
この1対1の関係があてはまらず、「あの薬にも、この食べ物にもアレルギーの症状が出てしまう」「どれも似てもいない、共通点のないアレルゲンにたくさん反応してしまう」といった患者さんの場合は、まずは、アレルギーではなく、化学物質過敏症の可能性を疑うべきなのです。