「お店で実際に買い物をされましたか」
今日は全国展開をしているスーパーマーケットチェーンのマネジメントをしている井口常務を招いての勉強会です。
井口さんに対して「こんな現場活動を進めていきたいがどう思うか」「小売店から私たちに望むことはどんなことがあるのか」という質問をしながら活動のヒントにするというものです。
こちらからの問いかけが一区切りついた頃です。井口さんが私たちを見回してこう問いかけます。
「皆さんの取り組みは素晴らしいと思います。お客さんの生の声は少々厳しいものでも自分たちのお店づくりに活かしていきたいですね」
井口さんが続けます。
「ところで皆さんはそのアンケートをとったお店で実際に買い物をされましたか。私どもは全国チェーンなので共通のフォーマットでお店づくりを行い、売り場も統一されたものになっています。
しかし、実際のお店づくりや売りモノは、それぞれの立地によって少しずつ変えていかなければ地元に密着した存在にはならないのです。その違いやちょっとした工夫は実際にそのお店を利用しないとわからないのです。
皆さんがアンケートの結果だけから提案を考えているのであれば、そこには皆さんの思いが宿っていないことになります。そのお店のカゴを持って実際に買い物をしましたか。店内のお客さんの様子をご覧になりましたか。そこの惣菜を食べてみましたか。そうしているのであれば、その時どのように感じましたか」
私たちは返事に窮します。
確かにその通りです。私たち営業に携わる者の間では「顧客視点」や「現場を起点として考える」という言葉を使いますが、それを心底理解するための行動をしているのでしょうか。
「おそらくこういうことなんだろうな」と考え、人から聞いた話や調査データだけで相手の視点に立っていると思い込んでいるのではないかと気づかされました。井口常務のお話はとてもシンプルで最も大切な部分を指摘しています。井口さんがさらに続けます。
「私たちはお店づくりに関する提案を数多くいただいています。その時に毎回私が質問することの一つがこれです。私たちのお店で買い物をしたことがない営業の方の意見はこちらには届かないですね」
あらゆる仕事の基本がこの言葉に詰まっています。
文/山岡彰彦 写真/Shutterstock