界隈のホームレスたちからも“厄介者”扱い

事件現場となった新宿駅西口の地下1階は、路上生活者が夜間に寝泊まりすることで知られていた。

2ヶ月間にわたって新宿の路上生活者と衣食住をともにした経験のある、「ルポ 路上生活」(KADOKAWA)著者の國友公司氏はこう語る。

「もともと新宿区には路上生活者が多いことで知られていて、今からおよそ10年前までは、都立戸山公園や新宿中央公園にはブルーシートやテントを張って寝泊まりする人たちで溢れていました。

そして現在、路上生活者にもっとも人気のスポットが、都庁の第一庁舎と第二庁舎の間にある『ふれあい通り』。ここでは寝泊まりしても注意されず、定期的にボランティアが差し入れや炊き出しを行なうため、20人近くの路上生活者が『定住型ホームレス』として段ボールの家で暮らしています。

しかし、これ以上の人数は住むことができないため『ふれあい通り』にあぶれてしまった路上生活者が、この付近で寝泊まりしているんです」

多くのホームレスが寝泊まりするふれあい通り
多くのホームレスが寝泊まりするふれあい通り

新宿西口の地下で寝泊まりしても注意されない時間帯は、夜11時から朝5時まで。気温の高いこの季節でも、およそ20~30人の路上生活者が寝どこを求めてやってくるのだが、その界隈でもこの女は“厄介者”として知られていたようだ。

路上生活歴6年の80代男性は「あの女はみんなから嫌われていたよ」とバッサリ言う。

「オレがあの女を見かけるようになったのは今から4年前くらいかな。この広場(=新宿駅西口の地下)は寝泊まりできる時間が決まってるというのに、あの女だけはルールをいつも無視してたの。

オレたちは昼間は新宿中央公園の方で時間をつぶしてるというのに、あの女だけは一日中この広場にいたから、毎日のようにお巡りさんに注意されてたね。

終電を過ぎると数十人のホームレスが寝床にする新宿駅西口地下
終電を過ぎると数十人のホームレスが寝床にする新宿駅西口地下

それでも最初のころは、炊き出しで余ったお弁当とかおにぎりを差し入れてあげてたんだけど、渡しても『ありがとう』の一言もないし、NPOから差し入れされたご飯も気に入らない具材が入ってるとポイっと捨てちゃう。

だからオレたちも数年前からはあの女とは距離を置いてた。今回の事件でここまで寝泊まり禁止にされたら本当に困るよ」

新宿駅西口は、2022年10月から大規模工事に着手。モザイク通りなどを含む、小田急百貨店などの跡地にはおよそ260メートルの超高層ビルが建てられる予定だが、前述の男性は「その影響で、駅前(西口ロータリー)に屋根がある場所が減って寝る場所が少なくなった。今はホームレスも生きづらい時代だよ」と愚痴をこぼす。