大企業で一度は麦くんになっていた

三宅 ちょっと言い方が難しいんですけど、京大って留年してる人のほうがカッコいいみたいなノリが蔓延ってるじゃないですか、良くも悪くも。

関西全体に言えるのかもしれないですけど、エリート意識を丸出しにするのはダサいっていう雰囲気がありますよね。エリート意識を持っていないわけじゃないけど。

佐川 たしかに、むき出しのエリート意識は恥ずかしいみたいな風潮があって、そういうのを出すとイジられがちでしたよね。でも本物のエリート層と一緒になるともうツッコミ不在ですからね。

僕も同期は230人くらいいたんですけど、あまりにもやる気がなさすぎて。社内では、もうひとりのやる気のない同期とふたりで「東の鈴木、西の佐川」って並び称されてました。

三宅 東の鈴木もいるんですね。

佐川 鈴木くんは慶應出身で、東では珍しいやる気のなさで(笑)。やる気ない者同士で仲良くなったんです。で、研修中にふたりで競馬を観に行ったんですよ。

それでダラダラしゃべってたら鈴木が「俺、日本の損害保険ってすごいと思うんだ」って言い始めて。どうやら鈴木は「日本の損害保険制度をイスラム圏の国に広めたい」っていう夢があるらしくて。それで同期の中でも僕が最下位に転落しましたね。

写真/shutterstock
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三宅 鈴木!(笑)

佐川 「やる気なかったんちゃうんかい」って思ったんですけど。それで結局、僕は1年で辞めちゃったんで、麦くんにもなれなかったんです。

三宅 逆に、私は一度大企業で麦くんになってしまった感覚があるんですよ。だから「仕事は楽しいけど、でもやっぱりあそこまで仕事に全コミットし続けることは、ずっとは無理だ」という気持ちがある。みんなが自分のペースに合わせてちょっとサボったり逃げたりできないと、メンタルを病んじゃうじゃないですか。

実際にそうやって潰れていく人も多いという事実を、会社の偉い人たちはどうお考えなのだろうか? っていう気持ちになって。だから『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』では、「みんな意外と働きすぎなのでは?」と、もっと社会にツッコミを入れなくてはいけないと思ってたんです。